2012年09月19日

野山、高山の植物図鑑を選ぶ(選び方)



野山へのハイキング、登山などで出会う植物の名前や生態がわかったら、
もっと親しみが沸くに違いない。
そう思う人のために、山野草、高山植物の図鑑について調べてみた。

一冊ですべてを満たす図鑑はないということを前提に、
優劣ではなくこんな場面では適しているという切り口で探ってみた。

1. 身近な山野草の名前を知りたい(ある程度もれなく有名な山野草が網羅されていて欲しい)

「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑

図鑑では主として名前がわかれば良いという用途なら、
ある程度収録点数が多いことが必要。
なぜなら、掲載されていないものは見当すら付かない。

そこで、植物の生育場所に広がりをもたせてあるのがいい。
例えば、西日本で高山植物といっても、
本州では低山に生えているかもしれない。
慣れてくると、住んでいるところの分布に適した図鑑がわかるようになるが、
最初の段階では守備範囲の広い図鑑を求めてみたい。

ただし、初心者が高価な図鑑は揃えてもムダになりそうな気がする。
そこで、植物名がわかれば、別の上級図鑑や百科事典を当たってみる
という使い方を想定した。

使う場面としては、現地に持ち出すのではなく、
写真やスケッチをもとに、自宅に戻って同定するという用途を想定する。
そんな場面にぴったりなのが、
「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑」である。

四国の剣山で見つかる花を検索しようとしたら、
実はぴったりの図鑑があまりない。
(高山植物では、本州が中心となるのはやむをえない)。
山野草では、四国固有の亜種が掲載されていない。
例えば、次のような花が一般的に見つかるのだが、
これらを一冊で網羅しているのは、実は上級図鑑でも見当たらない。
「キレンゲショウマ」「シコクフウロ」「ヒメフウロ」「ソバナ」「アワコバイモ」

この図鑑は、日本に自生する主な山野草を網羅したもので、
季節別に「野の花」「山地の花」「海岸の花」が調べられる。
新しい植物分類体系にも対応した2010年発行の新しい山野草図鑑である。

欠点は、1000品種という類例のない掲載点数のため、
写真がやや小さめで説明も簡潔であるという点。
(ただし、この1000品種の選び方が絶妙である。前述の「アワコバイモ」は基準図鑑の位置を占めている平凡社にも掲載されていないのに)
しかし、前述の目的からは、むしろこのコンセプトが適している。
また、アカデミックな解説は省いているのもわかりやすい。
園芸愛好家的な視点の好著といえるだろう。

価格: ¥ 1,575
単行本: 207ページ
出版社: 主婦と生活社
発売日: 2010/05
寸法: 21 x 15 x 1.6 cm




2. 持ち運びでき、わかりやすい図鑑

週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

ひきやすく、持ち運びができ、わかりやすい
山野草や高山植物の図鑑が欲しいという人には
週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)」がいい。

その特徴は以下のとおり。
・花の色別にひける。
・1頁に2品種で見やすさとアイテム数を両立。
・生態写真(全景と生えている場所)に加えて、花、葉の特徴的なアップの切り抜き写真(これが売り)。
・著者は新進気鋭の山岳カメラマンで撮影品質が高い。
・花期、高さ、分布が反転した囲みで一目でわかる。
・生育場所がアイコンで示されている。

全国の丘陵地、低山、深山、高原などにみられる代表的な花を、
写真掲載種約290種をはじめ、文中紹介種も含め約450種紹介したもの。
かゆいところに手が届く親切さがうかがえる図鑑で、
後に、大きな図鑑を買っても決して邪魔にならない。
就寝前に音楽を聴きながら、この図鑑を眺めるのが楽しみである。
西日本の人は、本書で地元の山野草はある程度カバーできる。

価格: ¥ 1,155
単行本: 174ページ
出版社: 小学館
発売日: 2011/4/1
寸法: 17.2 x 11 x 1.6 cm  



同じ著者の高山植物編もある。
高山植物ハンディ図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

価格: ¥ 998
単行本: 174ページ
出版社: 小学館
発売日: 2011/4/1
商品の寸法: 17.2 x 11 x 1.6 cm




3. 手元に置いて照合するために

現地には直接持ち運ばないけれど、
名前のわかっている山野草や高山植物の学術的な説明も交えて知りたい、
あるいは、撮影やスケッチをしてきた山野草や高山植物を
ひとつずつ照合していきたい、という用途には、
やや分厚いながら良い図鑑がある。

山と渓谷社は、文字通りこの分野を専門に扱っている出版社であるが、
専門老舗の信頼感と実績ではぴかいちである。
決して安価とはいえないこの「日本の野草」も累計50万部を販売したという。
しかも、1983年に初版が発刊されて以来、
四半世紀を経た2009年に満を持して発刊された増補改訂新版である。

定評ある写真に加えて、最新の学術情報を新たに加え、
さらに、製本技術の改善により造本の耐久性を高めた。
図書館で借りてきた旧版と比べると
色の再現性が向上しているようだ。
(やや見た目が鮮やかな記憶色の設定のように見受けるが、新しい図鑑ではこの傾向がある。このことは図鑑を見るのが楽しくなる一因となる)

図鑑のヤマケイが送る定番の山野草図鑑。
安価ではないと書いたが、ケータイ電話の一ヶ月の支払料金と、
この図鑑に費やされた労力と成果を比べてみれば、
決して高い買い物でないだろう。

カラー名鑑 増補改訂新版 日本の野草 (山溪カラー名鑑)

価格: ¥ 7,980
単行本: 736ページ
出版社: 山と渓谷社; 増補改訂新版
発売日: 2009/10/23
寸法: 20.6 x 19.6 x 2.4 cm






同様に高山植物編もある。
エーデルワイスのように、
過酷な環境でひっそりと山の稜線や谷間に息づく高山植物は
ただそこにあるだけで愛おしい。
その表情を豊富な写真、専門的な解説で日本の高山植物953種類を徹底収録。
双子葉合弁花類―335種類、双子葉離弁花類―352種類、
単子葉類―197種類、裸子植物―14種類、
しだ・こけ植物―40種類、地衣植物―15種類という構成である。

日本の高山植物 (山渓カラー名鑑)

価格: ¥ 4,720
単行本: 719ページ
出版社: 山と渓谷社
発売日: 1988/8/1
寸法: 20.8 x 19.4 x 3.8 cm

もう一冊定評のある図鑑を。
★「フィールド版 日本の野生植物 草本」
『日本の野生植物』全3巻をハンディな図鑑として1冊にまとめた。

掲載種類の多さは類例がない。
およそ山野草を眺めることを楽しむ人は持っていると思われる。
この資料は、当時の日本の専門家の力を集大成したものであり、
現在の植物図鑑は多かれ少なかれ影響を受けていると思われる。

3冊に分かれている卓上版の記述は詳しい。
しかしこのフィールド版では:
山野での携帯に便を図りつつ、
カラープレートは総704頁に及ぶものの解説は簡略化した。
科や属の説明は除き、属と種の検索表を残し、
種の記載は野外で必要な最小限度のデータに絞ってある。
日本の種子植物3700種より草本植物2776種、3234点を収録し、
種の識別に必要なデータおよび「科の検索」を付した。

もともと3冊に分かれて収納されていたものを
フィールドで使いやすいようにコンパクト化し、
1冊にまとめたもの。
そのコンパクト化が絶妙といわれているもの。
(例えば、写真のページと記述のページを明確に分けてあるフィールド版のほうが、卓上版よりも探しやすいのは間違いない)

ただし、写真の撮影年度が古い(70年代〜80年代前半)ため
カラー印刷の鮮鋭度はここ十年程度に発売された図鑑に叶わない。

価格:¥ 8,190
ハードカバー: 300ページ
出版社: 平凡社 (1985/02)
言語 日本語
発売日: 1985/02
寸法: 19.4 x 14.4 x 4.2 cm





図書館で借りたものも含めて使い込んでみて思ったことを最後に。

1冊の図鑑ですべてを賄うものはないということを改めて確認できた。

同じ植物が図鑑(写真)によっては別物に見えることもあるなど
図鑑を利用する人は、複数の図鑑を持つ傾向があることは間違いない。
(持つ必要があるし、持つことは楽しいともいえる)

そこで、以下のような読者を想定し、その人に合う図鑑を選んでみた。

仕事は多忙であり、自然の空間に出かけることは喜びと感じる。
ただし、リタイヤ後の人たちがそうするように、頻繁に行くことはできない。
高山ばかりではなく、身近な河原や草原など、数時間程度の散策がどちらといえば多い。
それゆえ高山に憧れるので、図鑑で夢を見させて欲しい。

そこで、まず一冊。
なるべく多くの種類が掲載されており、いつも辞書として繙く図鑑であって
定評があるものといえば、平凡社の日本の野生植物である。ここではフィールド版を挙げておく。

ごの図鑑の良いところは、類書と比べて圧倒的に掲載数が多い。
野生植物の括りであるため、高山から低地まで一冊でカバーしている。
検索表が付属し、同定のポイントが簡潔に記されている。
多くの専門家が参画したことで、地域性を持つものまである程度記載されている。
ここでの記述がその後の植物図鑑の基準となった感がある。
掲載されていなければ、手がかりが掴めない。
しかしこの図鑑では、大概の植物が揃う。

例えば、類書に掲載されていない四国変種、ないしは四国希少種としては、
シコクイチゲ、オトメシャジン、タヌキノショクダイ、キレンゲショウマ、テバコマンテマ、
ナンゴククガイソウ、イシヅチテンナンショウ、ウナヅキツクバネソウなどがある。
また、本書でも掲載されていない四国変種としては、
トサコバイモ、アワコバイモ、トクシマコバイモ、イシダテクサタチバナなどがある。

欠点があるとすれば、コンパクトで内容が豊富なため、写真が小さいこと。
写真の撮影年度が古く、当時のフィルムや版下などの劣化が想定され、
写真の鮮鋭度はいまひとつである。
しかし、それを補うのが掲載種の多さと引きやすさである。
植物や花の好きな人なら、必ず一冊は持っていると考えられ、
今後これを越える専門家の参画による編集は考えにくいこともあって
まずは標準として揃えたいもの。

フィールド版 日本の野生植物―草本

次に、写真の美しいシリーズでは、
山と渓谷社の「山渓ハンディ図鑑」シリーズにとどめをさす。
分冊化されたため、コンパクトでめくりやすい。
なんといっても売りはクローズアップを含む写真が多いことと
同定のポイントが簡潔に示されていることもあって
眺めて楽しい図鑑ということでは最右翼である。
歴代の図鑑では、写真の美しさでは出色で、
その白眉は発刊が新しい「高山に咲く花」ではないだろうか。

心をうきうきさせるだけでもこの図鑑の価値はある。
シリーズのなかでは売れ筋の「山に咲く花」が絶版となっているが
近い将来の再版(もしくは改訂版の発売)が期待される。

→ 2013年3月に改訂版が発売 
山に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)

野に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)



ただし、分冊となっている図鑑を合わせても
変種を含めた掲載数は平凡社が多いと思われる。

野に咲く花 (山渓ハンディ図鑑)

高山に咲く花 (山渓ハンディ図鑑)

山に咲く花―写真検索 (山渓ハンディ図鑑)


私のように植物の心得がないものには
(地学と生物が選択で地学を採ったため)
これらの図鑑をいきなり使いこなすのは難しい。

そこで役に立つ入門書が2種類。

増村征夫著「ひと目で見分ける250種 高山植物ポケット図鑑」

新井和也著「週末ハイキングが楽しくなる花の図鑑」

などの入門書である。
それぞれ、250種類、450種類と少ないが、文庫本サイズであり、気軽に手に取れる。
全景写真のほかに見極めのポイントがクローズアップやイラストなどで示され、
しかも花の色別に並べられている。
おそらくどんぴしゃりの花が見つかることは多くないと思われるが、
特徴が似たような花は見つかる。
今度は、その属や課ごとに分類されている図鑑で調べてみると
「あっ、あった」ということになる。

その意味でこの2冊は徹底的に眺めて(暗記する必要はないが)
なんとなく花とそのイメージを頭に入れておくための練習用にも使える。
時間のあるときに、飽きるほど眺めて、徹底的に「科」「属」の特徴を
右脳にたたき込むのだ。このことが、上級図鑑を活用する際に生きてくる。


ひと目で見分ける250種 高山植物ポケット図鑑 (新潮文庫)


週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)


以上は、「想定される読者」に近い私が、
実際に図書館で借りたり、購入して判断したもの。
ハイアマチュアや専門家の見解とは異なるかもしれないが、
私のような初心者がたどる道筋として
納得される方もいるのではないだろうか。

















タグ:植物図鑑