2015年03月29日

妻が支え、夫が開いたジャパニーズ・ウイスキー


竹鶴政孝の妻、リタは幸せな生涯だったと思う。
封建社会の名残が色濃い大正時代に
(双方の家の許しが得られず)
故郷を遠く離れて言葉のわからない国に暮らし
日本人にはなじみのないウイスキーづくりを
無から挑戦する夫を支えるという。

リタは忍耐強い人であったとされる。
成功する人は忍耐強い。
ハーバードだったか、こんな研究成果がある。

幼少の子どもにおやつを与え、
いますぐ食べるか、あとで食べるかの選択をさせる。
それぞれの選択をした子どもが成人して
どのような暮らしをしているかを追跡を行った。

我慢してあとで食べることを選んだ子どもが
良い暮らしをしていた、という結果は想像できただろうか。

リタは、日本人以上に日本人になりきろうとした。
心のなかにはこの土地に骨を埋める覚悟で
夫の夢を実現させるという信念の灯火を絶やすことがなかった。。

短期で結果を求めることなく良いものをつくる―。
政孝もまたその信念はぶれることはなかった。
ニッカのウイスキー、日本のウイスキーの黎明期を
夫婦の絆で来る日も来る日も紡いだ。

リタが亡くなったのは1961年の冬。
妻に捧げる究極のブレンデッドウイスキーとして
1962年に誕生したのがスーパーニッカ。

「ウイスキーが熟成するまでに何年もかかる。これは娘が大きくなれば嫁にやるのと一緒なのだから、立派な衣装を着せてやりたい」

リタを思わせる優美なガラス瓶は特注であり、
佐藤潤四郎がデザインしたセミクリスタル製の手吹きボトルに詰められた。
この瓶を傾けてグラスに注ぐ際の
独特の澄み切った音響は舌へのご褒美を約束するかのようだ。
当時は大学生の初任給の1/5ぐらいの価格で販売されたが
なかなか入手できない幻のウイスキーであった。

当時のスーパーニッカを知るブレンダーが
その風味を復刻した初号スーパーニッカ復刻版が
2015年3月24日に発売された。
http://www.nikka.com/products/blended/fukkoku/supernikka/

手元にある3種類の竹鶴(無印、12年、17年)と
初号スーパーニッカ復刻版を比べてみた。
DSXE8624-1.jpg

余市モルトの強いピート香の奥から
蜜が滴り沈み込むような重さがある。
そのままでも良いが、水を少しずつ加えていくと
スーパーニッカの個性がひらいてくる。

スーパーニッカの発売は、宮城峡蒸留所の開設される7年前のこと。
復刻版においては宮城峡モルトを使っていないかもしれない。
竹鶴は、余市モルトと宮城峡モルトの妙を味わえるので
華やかでフルーティといえるが
それと比べても初号スーパーニッカは複雑で重厚な味わいである。

竹鶴夫妻を忍びつつ
連続テレビ小説の余韻に浸りつつ
スーパーニッカと竹鶴を味わいたい。
(コクはあっても濁りのない澄んだ風味がジャパニーズの特徴かも)



竹鶴17年は入手が難しくなっているようだ。



リタさんについてはこの本を読んだ。


リタと利他を重ねているのかもしれない。

神保町で買った万年筆 ジャパンブルーのボディと月夜のインク


場所は調べてあった。
店舗に電話も入れて確認した。
それなのに数回通り過ぎて入口に気付かなかった。
お客様ひとり入れば、あとの人は店外で待つことになる。
そんな小さな万年筆店を訪れたのは、2015年の3月。

最初に使い始めたのは近所の文具店で購入したパイロット。
太字の軸に鮮やかな青インクを入れていた。
どこに行くのにも持ち出して
そのときに思い浮かんだことをさらさらと書く。
(阿南の「大菩薩峠」はひとりでよく通ったもの)

ところがある日、床に落としてしまった。
ペン先からのインクは流れることなく沈黙し
それ以来、使わなくなっていた。

それから数年、セーラーのプロフィットの細字を求めた。
いまでも仕事の署名やメモ書きに使っている。
メモというよりは、
誰かと向かい合って言葉を書きとめるのに使う。
(取材、聞き取り、ヒアリング)
ノートパソコンに打ち込むときもあるけれど
その場の雰囲気にそぐわないと感じたときは
万年筆とノートに書く。

気取っている? 
そうではなく、ボールペンでは筆記の速度が話し手の心の動きに追いつかない。
万年筆では筆圧をかけないので後追いができる。

今回購入したのは、パイロットのカスタム74
パイロット カスタム74

カスタムシリーズは国産で歴史のある万年筆だが
1本1万円程度と求めやすい。
見た目がおしゃれとは言いがたいし
風格があるわけではないけれど
実用の筆記具としては申し分ない。
(むしろステイタス性がないほうがいい。マイスターシュテック149で署名するような場面ではないので)

立派な万年筆は自重があるので
それを利用してペン先を運ぶ印象がある。
ただ、ペン先が大きいと日本語のさばきが難しくなるような気がする。
国産万年筆は、手頃な価格でありながら品質管理が安定していることもあるが
日本語や縦書きでなめらかにペン先を運べることは確かだろう。

あいにくカスタム74はお店に品切れしていたが
お送りいただけるとのことでお金をお支払いし、
約1週間後に届けていただいたもの。

金ペン堂の万年筆は書き味が違う、と言われている。
それは、ペン先を調整してから店先に出されるからなのだけれど
それ以外に細かな助言もいただいた。

インクは変えないことが望ましい、と伝えられた。
一度ペン先を通ったインクは
水洗いしても残るので銘柄や色を変えると
インクの滲みだしが変わってしまう怖れがあるのだろう。
出荷のご連絡とともに使い始めの助言も含めて
お電話で再度ご教示いただいた。

安価な万年筆であったが
小さなお店の心に触れた気がした。
(飛行機代を払ってでも)この次に買い求めるときも訪れたいと思う。

購入したのは、カスタム74を2本。
黒の軸、Fのペン先にカートリッジ式の黒インクを組み合わせる。
(取材で使うのはこれが使い勝手がいい)

もう1本は、ダークブルーの軸、Mのペン先、コンバーターCON-50を組み合わせ、
インクは、「iroshizuku 月夜」。
たゆたう青、そして緑の残光を宿す。
(この青のボディも落ち着いたジャパンブルーと言いたいような色彩)


書き始めて数分でどちらもなめらかな書き味に到達。
特に、Mのペン先と月夜のインクは、
書いていて時間の経つのを忘れるほど。
無心にペン先を走らせるとき、
書く、という行為を忘れて
(掌や指先が消えて)
自分の心から汲み取った言葉を紡ぐという感覚。

キーボードでは、
NICOLA規格の新潟のリュウド社のRboard Pro for PC、
同じく富士通の親指シフトキーボード、
そして、ノートパソコンに外出先でつなぐ
東プレの静電容量型の3種類を使っている。

文字を打つこと、文字を書くことは、
(写真を撮ることも含めて)
自分と向かい合う時間であるとともに
さまざまな生き方との交錯の記録であり
悠久の記憶をたどりつつ、
短い人生に投影する行為なのだ。

ダークブルーというよりもジャパンブルーという感じ
D7K_2058a-2.jpg

パイロット カスタム74







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空と海

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