2018年07月21日

クリプトンKX-1に合わせるアンプ〜PM-12とPM8006〜


所有しているクリプトンのKX-1
オンキヨーのA-1VLというプリメインで鳴らしている。
購入したのは2005年だったので13年使っていることになる。

このアンプはデジタルアンプで音抜けが良いのに
メリハリをねらった強調感がなく、ストンと抜けてくる。
抜け味の良さというか、音離れの良さ、
それがそよ風のようにひきずらないので耳に心地よい。

これまで店頭でヤマハ、ラックスマン、ソニー、デノン、マランツなどと
KX-1を組み合わせて聴いたが納得感は得られていない。
音の塊感と艶やかさでラックスのA級(L-550AXII)に惹かれたけど
エアコンを置いていないので夏場の室温は30度を超えている。
聴きながら眠っていることが多いのでA級は避けたい。
(やはり発熱の多さがネック)
また、どの音楽ソースも同じように艶やかなハイファイ調で鳴らしてしまうのが難点。
カフェなどで鳴らしていたらうっとりするのだろうけれど
いつもいつもマリリン・モンローでは飽きてしまうかなと。

現役機種で行き着いたのはマランツのPM8006
これは音楽がよくうたう良質のプリメイン。
上級機種のPM-14S1やPM-10との比較でも
目を閉じて先入観なく聴けば8006を選んでいる。
音楽がレガートに聴こえる、というと楽器を演奏する人にはわかりやすいだろう。
艶やかな高域が音楽の輪郭を浮かび上がらせる。
この音はきっと海外でも売れるはずである。
上級機とは音づくりのチームが違うのだろう。
デザインもいいし音量調節が無制限に回らないのもいい。
夜中に小音量で聴くので小音量再生を重視している。
(大音量で再生できるのは金持ちが地下につくった専用の部屋でもなければ困難)
8006には良質のデジタルヴォリュームを採用しているのも小音量再生に貢献しているし
パワーアンプが肥大化しないのも利点。
ハイエンドのプリメインはほとんどパワーアンプという印象で
出力が大きくなればそれに伴って
熱や振動、消費電力、リーケージフラックスなどが増加。
小音量で聴くのなら大きなパワーアンプは不要。
この機種は下位の機種と比べて良質な部品が使えるうえ
上位の機種と比べてパワーブロックを身の丈に収めることができる。

きょうは出張でヨドバシのマルチメディア館に来た。
朝一番で誰もいないので
KX-1を固定してPM8006を原器にプリメインを切り替えて視聴を行った。
ネットワークプレーヤーはソニーである。
ソースはノラ・ジョーンズのファーストアルバム。
よく聞きこんでいる音源がたまたまソニーに流れていた。



まずはPM8006
これだけを聴いているとどこにも不満がない。
音楽が朗々と響くけれど誇張された感じはしない。
絹のようなレガートな高域と弾む低域で
愉しく美しく聴かせる。
アナログプリメインとしての絶妙のバランス、完成形と思う。
高域がきついとか、低域がだぶつくとか、局所的な不満はまったくない。
ただ音楽に集中できる。
アナログらしさがうかがえるのは
レガートな高域と表したように、わずかなエコー感を感じるからで
これが人間の聴覚に安心と安らぎを感じさせているのだろう。

続いてPM-12。
発売してそれほど日が経たないのでエージングが進んでいない不利な点がある。
高域の艶やかさは8006が上回るため、
一聴して8006が好きという人は半分ぐらいはいるだろう。
グレードのとらわれずその音が好きになるかどうかで判断すればいい。
比べると8006が華やかでやや派手な感じがする。
8006だけを聴いていると端正な音と思う人もいるだろうが
PM-12と比べるとジュースとミネラル水のような違いがある。

しかし声の存在感、空気感というか
声の肉声として空気を震わせるうたい分けはPM-12でないと出ない。
特に異なるのは中域、中低域の押し出しである。
8006は豊かな低域と艶やかな高域が音の輪郭と弾む感じを演出していると気付く。
(それはそれで良いことではないだろうか。聴き手を楽しませるのだから)

長い時間、音楽に接するのならPM-12ではないか。
前機種のPM-14S1は8006と比較試聴して
律儀で抑揚に乏しいが音の強調感が疲れる感じがした。
ところがPM-12では前機種のPM-14S1と比べて音調は一変している。
似ているのは型番と価格帯だけで
設計思想が違うのだから当然なのだが、
12では高域のきらめきが抑えられた分、
輪郭は8006が明快に聞こえるが
12が中域の密度感が高く、わずかな空気のそよぎをスピーカーに展開させる表現ができる。
同時に比較はできないが抜けの良さはオンキヨーのA-1VLが上回る。
(オンキヨーを持っている人は大切に使われるといい。このアンプは接点が少なくシンプルな回路設計、無理のない筐体と発熱が少ない電源なので長期にわたって安定的に使える。ぼくはオークションには出すつもりはないが、13年使っていても次の使用者が劣化を感じるようなところは見つからないだろうと思う)

前述のようにPM-12は音の押し出し感があるのに一聴しておとなしく聞こえる。
そのなかに微妙な音の描き分けをしている。
長時間音楽に浸れるアンプであることは間違いない。
それなのに、顕微鏡的(オーディオマニア的)な接し方をしても
それに応えてくれる。
ノラ・ジョーンズをレイドバックしてくつろぎながら聞きたいなら
よくうたう8006よりも12。
12は決して蒸留水のような音ではない。
旨味を含んでいるが砂糖や保存料は入っていない
天然ミネラル水のようなアンプだ。

外気温が30度を超えるこの日の東京であったが
天板に触れてみると少しあたたかくなっている程度であった。
(8006も発熱が多いとはいえないが、PM-12はさらに発熱が低いようである)

ぼくはこのアンプをクリプトンを鳴らす最終版として決めてもいいと思っている。
もちろん好みによって8006を選んでもそれはそれでよし。
8006は音楽をわかりやすく鳴らすから。
でもPM-12は聴き手の感性と耳によってはどんどん深淵を見せてくれる。

追記

最上級機種のPM-10と両機種も比較視聴している。
10はエージングができているせいか
音楽の透明度が12を上回る。
けれど音楽を語るという点では遜色がないように思う。
10は筐体が大きいうえ、価格の違いも大きい。
お金を別の有意義なことに活かせるのでぼくなら12を選ぶ。
PM12は、濃淡と塊感がはっきりしているので
微妙な音の差異が聞き分けられる反面、
音場と音の粒子が溶け合うような表現は望めない。
これは次世代機での課題だろう。
そこにPM-8006の存在意義がある。
8006は中域の密度感が高まると再生音が一変すると思う。
これも次世代機での課題。
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