企業は自らの世界観が描ける範囲で人材を獲得できる
企業は良質の人材が欲しいが、なかなか思うような人材が得られない。
名著「ビジョナリー・カンパニー」いわく、
企業は何をするかではなく、
どんな人を集めるかから始めるべきと説く。
行き先は船に乗る乗組員(社員)が決めるというわけだ。
とはいえ、
人を入れ換えるのが簡単にいかないことは誰でも知っている。
社員は生活がかかっているし、
そもそも企業に夢や世界観を描いて実現できる力がなければ
魅力的な人材は得られない。
社風が社員に与える影響は大きい。
中小企業の社風を決定しているのはトップであることは間違いないが、
そこに血肉を与え、経営者の思いから飛び立とうと
自分たちの社風を現実化しているのは社員である。
仕事の動機は必ずしも給与ばかりではなく、
むしろそれ以外の要素が大きいように感じる。
小さな企業であっても
高い理想を描いてどこまで飛ばせるか(=行動力)が
大切ではなかろうか。そこに人は惹きつけられる。
社員の気付きから始まる
ゼロ成長の時代だからこそ
組織の一人ひとりが考える、洞察する、実行することが求められる。
良い助言者が見つかれば、
その気付きを与えてくれるが、なかなか見つからない。
稀少な理由は、
洞察力に裏打ちされた偏らない専門性を備えていること
(広く深く知恵が体系化され、それが整理されているともに自在に取り出せる人)、
そのうえで人間的な魅力があって
人々を惹きつける人物であること。
そんな人がいれば、
例え同じことを言ったとしても言葉に深いメッセージが加わるはず。
それが説得力である。
企業が伸びるためには
個々の社員の心のあり方や態度が大切であることは言うまでもない。
個の力の集合体としてのチームワークも高まっていく。
そこにあるのが「気付き」である。
気付きをもたらすもの
「気付き」とは専門性(ノウハウなどの技術要素)と
人間力(心理要素)が合わさって触発されると考える。
ノウハウの部分は
実務に携わる人たちが現場で磨いて保持しているもの。
答えが具体的に載っているハウツー的なコンテンツなどは
一見して役に立ちそうであるが、
著者の得意な土俵に誘導されていることに気付かないと、
マジックを見せられているような気分になるだけ。
普遍性がないのは、
特定の土俵の限られた条件で成立した事例の本質を
抽出しないまま取り込もうとするから。
つまり、課題の抽出ができる洞察力や
そのためのプロセスを確立できる人でなければ
本質を見誤る怖れがあるのだ。
プロフェッショナルとは、
まさに課題解決能力を持つことにほかならない。
その気付きのきっかけとなる書籍が発刊された。
「利益改善&能力開発チェックリスト1000」(商業界、2014年9月9日刊、1,800円+税)である。
小売業のための利益改善&能力開発チェックリスト1000

全国で実務に携わる人たちが
利益改善、能力開発(部門別、職能別、職位別)という切り口で着眼点を表にしたもの。
利益改善では、
・店舗レイアウト
・店舗運営
・商品政策
・商品陳列
・接客技術
・販売促進
・人材教育
・競合店調査
・経費管理
・法令遵守
などに分類されている。
「商業界」からの出版なので
流通業で使いやすいのはもちろんだが、
今日の製造業もお客に魅せる場を持っているはずなので応用できる。
著者はチームフェニックスと名付けられた
全国に散らばった7人の実務者。
彼らは、パフォーマンスとは無縁なところで実務を磨きつつ、
普遍化したノウハウをチェックリスト化したもの。
いわば実務から産み落とされた知であり、
ハウツー本でもなければ
学者の書くようなアカデミックな内容とも無縁。
これからリーダーや部門長をめざす人が
セルフチェックをかけるために使ってみると良いだろうし、
創業しようとする人にとっても創業塾で学べないような内容である。
個々に内容を見ていくと
例えば「人材教育」の項目では、
50のチェックリストが分類して掲げられている。
リーダーの行動として、
「自説を一方的に演説するのではなく、聞く時間をできるだけ長く持つことで、部下の状況の把握や言い分を理解し、そのうえで的確な導きを行っている」と短く書かれている。この一文に照らしてもリーダー失格の人材は少なくないだろう。部下の言い分に耳を傾けないのは組織の利益のみならず、大切なやる気にストップをかけ、自由闊達な風土が失われてしまう。けれどこのようなリーダーは発言力があり、一見頼もしく見えることもあるので始末が悪い。」
チェックリストはさらに続く。
「リーダーは、必要なときにはためらわず、自分の人生経験に基づいて諭し、説得を行っている」。
一見その前の項目と矛盾しているようにも見えるが、
必要なときとはそれが効果的なタイミングを見計らって
あえてやるという意味だろう。
これができるためには、
人間への限りない洞察と愛情が求められる。
しかしそのリスクを背負って説得するには
決断力も必要との著者の思いが見えるだろうか。

このように、各項目50のチェックリスト、
全体で1000のチェックリストは具体的な行動で記述されるとともに、
後半ではそこに至った各著者の世界観が語られている。
人材教育の著者の項目では次のように綴られている。
「変化に対応するだけではなく、変化を創造していくことが求められる今日の流通業で、世代のギャップを感じながらの人材教育は、守り(規律を維持し不満を生じさせない)と攻め(創造性を引き出し満足度の高い成果を生み出す)の両面から考える必要があります。守りと攻めは相反するものではありません。自由闊達な社風には規律が不可欠であり、規律ある風土があってはじめて夢や挑戦は羽ばたくのです。
攻めと守り―─その線引きを行うために複雑な仕組みは不要です。大切なのは、企業の理念やメッセージ、世界観を全社員(パートタイマーを含む)が共有することです。理念が本当に浸透すれば、どのように行動すべきか「行動規範」が見えてきます。
企業にとって人材育成は目標ではなく手段です。そして、人材の生み出す成果が業績を左右します。人材育成は、内部環境や顧客、地域との相互作用によって磨かれるもので、どのように人を育て、何を求めるか、そこにはモノサシが必要です。」
(引用ここまで。引用、写真撮影に際して著者及び出版元の承諾を得ている)
著者の世界観に照らしてチェックリストの項目を読めば、
背景と本質が見えてくる。
それが理解できれば
自社にカスタマイズして使ったり、
朝礼で音読してチーム内で意味を考えて
チェックリストの項目とリアルな世界が
どのように実感できたかなどを語り合うと良いだろう。
会議の場ではブレーンストーミングの教材として、
チェックリストの真意はどこにあるか、
自社ではどのように落とし込むかなどを話し合うことができる。
うまく活用できれば、読み手の理解と成長を促す機会となる。
→ 「本のソムリエ」1分間書評動画でも紹介(YouTube)