2011年3月11日のこと。
その日は、県外へ出張していた。
15時前に東北で大きな地震があり、
四国東南部にも警報が出ているとの情報がもたらされた。
わが家も海に近い。
なんと、自宅周辺でも大津波警報が出て、
人々が山に駆け上がっているとの情報も
断片的に聞こえてきた。
出張を切り上げて急いで戻る。
自宅と電話がつながらない。
ケータイもつながらない。
大津波警報の影響で
公共交通機関も止まってしまった。
やがて、東北が悲惨な状況であることが伝わってきた。
頼りにするのは、
ノートパソコンとPHS接続によるインターネット。
回線速度は遅く、
Webサイトの閲覧は10秒ぐらいかかり、根気を要する。
充電状況にも余裕はないし、電源の確保もままならない。
こんなときにラジオがあったら、と思った。
震災時にラジオが役だったとの経験から、
震災後の店頭やインターネット販売から
ラジオが消えた。
一時期、ネットオークションで
ソニーの災害対応のラジオに
6万円(通常は数千円)の価格が付いたこともあった。
(このような出品業者には後に非難が殺到したことだろう)
メーカーの生産が落ち着いた頃、名刺サイズのラジオを入手
数ヶ月を経てようやく入手できるようになった頃、
家庭用に電池で長時間作動し、
音質の良いICF-801を購入した。
単純な操作ながら、
ラジオを聴くのが楽しくなるような音質だった。
しかし、このラジオはあくまで家庭用で
移動を想定していない。
そこで、ポケットに入る携帯ラジオを求めて
ソニーの名刺サイズラジオ、
ICF-R351をようやく購入できた。
(すぐにでも買えないことはなかったが、行動しながらラジオを聴く必然性は被災地の方であり、流通在庫が豊富になるまで遠慮した)

(このラジオにはストラップは必需品だと思う。ネックストラップとリストストラップを付けてみた)
高感度で聞きやすい音質、巻き取り式のモノラルイヤホンも実用的
このラジオの使用感は以下のとおりである。
比較対象は、ソニーのBCL対応の名機といわれるICF-2001D、
ローカル局向けに抜群の音質を誇るICF-801である。
それらと一対一で比較してわかったのは、
ICF-R351は、高感度であり、低ノイズであること。
シャツのポケットに入るようなサイズなのに
ICチップを多用する設計がうまくいったのか、
サイズの割に大きなフェライトバーアンテナの効能か、
通信機としての性能(感度、選択度、安定度等)が
優れていることを示している。
聞きやすいAMに対し、FMではさらに明瞭度が高まる。
(このラジオはPLLシンセサイザー方式である)

音質の明瞭度は高いが、貧相な痩せた音質でもない。
おそらく人の声の基本帯域(中域)を中心に、
高域、低域のレンジを見切っているのだろう。
これが聞きやすく、かつ豊かな音質の秘密ではないか。
巻き取り式のイヤホンは、ていねいに使用する限りにおいては、
巻き付けておく外部接続式に比べると
かえって断線などのトラブルに巻き込まれにくいと感じる。

ローカル局の受信状況は申し分ない。
地域毎にあらかじめ主要放送局の周波数が
プリセットされており、
エリアを選べば
出張先でも選局が容易となる。
地元放送局も記憶可能で、
普段はそれで聴くことになる。

ただし、周波数が不明な場合に、
マニュアルで選曲することは不便だ。
この点、周波数サーチ機能があれば良いのにと感じる。
マニュアル選曲のラジオでは、
ダイアルを回して耳やインジケーターで放送局を探す。
デジタル方式は周波数安定度が良い反面、
選曲はラジオ任せにならざるをえない。
このラジオで唯一の不便に思う箇所だ。
単四アルカリ1本で105時間
ICF-R351は、汎用性が高い単四乾電池たった1個で作動する。
購入して数ヶ月経過するが、
週に2回程度の使用頻度で
電池の消耗を示すバーグラフは満タンのままである。
(単四アルカリ電池1本でAMの場合、105時間)
非常時には、
インターネットにつながりにくくなったり、
無線LANの基地局が破壊されることなどが想定される。
情報の探索にはTwitterが有効とされているが、
数時間しか持たないスマートフォンに依存することはできない。
ただし、ラジオの放送も過信はできない。
先の震災時にはNHKもローカル局は
ほとんどローカルコンテンツ(情報)がなかったからだ。
また、徳島県の海沿いには
NHK第一さえ受信できないエリアがある。
(山間部の谷間で電波が届かないのは中波の性質上ある程度はやむをえない)
中継局の出力増強等で対応できないかどうかを研究する価値はある。
臨時のコミュニティ局の開設も選択肢のひとつだが、
人々が災害時に選局するためには、
普段からコミュニティ局として活用を行うことが望ましい。
地域活性化にも一役買う可能性があるが、
運営体制や放送ノウハウ、人材育成が課題となる。
これらの要望は県の公式の場を通じて
NHK徳島放送局、四国放送等に伝えることができた。
ICF-R351をなぜ選んだか
繰り返すが、受信性能が高いこと、
小型軽量でいつも持ち運べること、
長時間電池が持つことである。
それに加えて、
片耳イヤフォンであること(モノラル)。
両耳(ステレオ)と比べてモノラルの優位性は多い。
・電池の持ち時間が約2倍である。
・片耳は自然界の音が聞ける。避難の途中などで周囲の音を遮断することは危険である。
・コードがからまりにくく、かさばりにくい。
・受信状況が同じあれば、ノイズが少ない。
用途としては、災害時以外にも使える。
クルマで聴いていた番組をクルマから降りたあとも聴きたいときや、
小型軽量が登山に使えると感じる
放送の受信だけではなく、雷の接近が判断できる。
(ラジオにガリガリと雑音が混じり始めたら雷から50km以内。その雑音が大きく、かつ間隔が短くなるときは雷雲が接近していることがわかる。雷鳴が聞こえると10km以内なので、避難行動を取る)
デザインは、上品なシルバーの金属パネルに
ブルーのアクセントが爽快感をもたらしている。
良いデザインと思う。
なお、製品には黒のビニールケースが付属する。
巨大地震の想定に冷静に対応する
内閣府は、2012年8月29日に、
南海トラフを震源域とする巨大地震が起こった場合、
死者は最悪で32万人に達する被害想定を示した。
そのうち、7割は津波で命を失うとしている。
ただし、約7割の人が10分程度で迅速に非難できた場合、
津波の死者は8割減少するとの結果も合わせて示している。
初動における的確な判断が生存の確立を高める。
その前提が情報の入手である。
だから、出張が多いぼくは、
ビジネスバッグにICF-R351をいつも入れている。
的確な情報の入手は、自分のみならず、
家族や周囲の人の希望をもつなぐはずだから。
この記事を書いた現時点では、
送料無料を考慮するとアマゾンで購入するのがもっとも廉価である。
→ メイドインジャパンのホームラジオ ICF-801の使用感
【追記】
ICF-R351はすでに現役機種ではなくなっている。
2015年夏には、ICF-R354Mが発売されたため。
ただしデザインの変更があるぐらいで基本性能は変わっていない。
FMは当初からワイドバンド仕様であるため、
ICF-R351もワイドFM(FM補完放送)に対応している。
最新機種ICF-R354Mでは、山エリアコールが加わり、
高山帯での選局が予めプリセットされている
(山域ごとに切り替えが必要)。
しかし、高山帯では遠距離受信が可能なことから
通常のスーパーエリアコール搭載機でも
ほとんど差異はないと思われる。
ただし、ICF-R354Mでは電池の持続時間が
ICF-R351の7割程度に落ちている。
製品の性格から
稼働時間を重視する人はICF-R351を選びたい。
(まだアマゾン等で流通在庫もあるようだ)
基本性能の差はないのでデザインの好みや入手しやすさで選べば良い。
(もちろん旧機種を持っている人が最新機種に買い替える必要はない)
以下のリンクを比較して価格とデザインを参考に。
→ SONY FM/AM ポケッタブルラジオ R351 ICF-R351
→ SONY FM/AM PLLシンセサイザーラジオ ICF-R354M
→ ソニー SONY PLLシンセサイザーラジオ FM/AM/ワイドFM対応 片耳巻取り 名刺サイズ SRF-R356
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