それが何かを生み出すのであれば。
父は若い頃、自分でモノクロの現像などもやっていた写真好き。
小学生のぼくにもカメラを買い与えた。
それが、ミノルタのハイマチックF。
NASAの飛行士が宇宙に持ち出した
ハイマチックを受けつぐカメラである。

いまも手元にあって、シャッターは快調。
クロームメッキは経年変化を忘れたかのように
銀の輝きを曲面に宿す。
レンズは、ROKKOR 38mm/F2.7。
標準よりやや広い準標準の画角は風景を違和感なく切り取る。
ネガフィルムで撮影すると、
色彩の忠実な、それでいて階調豊かな画になる。
(ほんとうに良いと思う写真は、超広角や望遠ではなく、広角から標準域が多いような気がする。落ち着くとでもいうか)

ぼくの事務所にかけてある額縁は
ハイマチックで撮影したネガフィルムから伸ばしたもの。
光の明暗を慈しむようにやわらかく捉えた画は
夢幻を漂うようでありながら現実感を併せ持つ。
ライツミノルタCLは、父の形見である。
レンズは、Mロッコール40mm/F2とMロッコール90mm/F4。
事業の羽振りが良かったときだろうか。
近所のカメラ屋で勧められて購入したらしい。

フジクロームを詰めて
何気ない風景を撮影してみたら驚いた。
明るい部分に力があり、
暗い部分もコントラストが高いのに
なめらかにつながっている(対比と連続性の両立)。
画面から受ける印象は、
しっとりとした油彩画のような感じとでもいおうか。
全体の印象はコクがあるという感じを受ける。
四国の「空と海」その2のタイトルバナーは、
このカメラで撮影した風景を加工したもの。
現物として手元にある本機は、
日本に残されているライツミノルタとして
極上の保存状態と思う。

父は、アサヒペンタックスSPFも持っていた。
スクリューマウントの開放測光で使える
一眼レフで当時のベストセラー。
天体写真を撮影したのはこのカメラで
(電池不要で長時間露光で可能)
特に、SMCタクマー35mm/F2と85mm/F1.8を多用した。
望遠鏡と接続して撮影した月面が
天文雑誌に入選したのもこの頃である。
(10代の頃は天文学を志していた)。
社会人になると、
自分もカメラ(一眼レフ)を買ってみようと思い、
ミノルタになじんでいたこと、
篠山紀信や三好和義が使っていたことなどで、
X700にした。
(ほんとうはXDが欲しかったのだが、新品で手に入らなかった)。
ファインダー(スクリーン)が見やすく、
明るいのにピント面が合わせやすい。
(この点では、ニコンF3をはるかに凌いだ)
南太平洋や四国の山野、
水辺をともに歩いたのはこのカメラである。

その後、ミノルタはオートフォーカスの一眼レフを開発し、
世に出した。
一世を風靡したα7000である。
(ぼくはオートフォーカスのカメラには興味がなくX700を使い続けた)
ミノルタはこのカメラから伝統のマウントを変更して
まっしぐらにAF化を進めた。
ところが、事業に行き詰まるようになり、
コニカとの経営統合を経て
カメラ部門はソニーに譲渡された。
「ミノルタ」という言葉の響きが好きだ。
(ただし、ロゴはいにしえの小文字が好きだ)
なにかの造語だろうが、
実る田んぼ → 豊穣の印象がある。
写りもそのとおり。
その伝統はソニーの現行機種にも受けつがれているようで
小型デジカメ史上最高の画質といわれる
DCF-RX100の吐き出す画に共感する。
小さなカメラから
ファンタジーあふれる絵が紡ぎ出されるのだから
幸福感さえ感じさせる。
(操作系になじめれば購入したのだが…。何もかもカメラ任せにしたくなかったので)
デジカメで購入したのは、フジのF31fd。
メモ代わりに使って数年になる。
廉価な機種でありながら、
複雑な光源下でも安定したホワイトバランスを見せる。
色の再現性について、このメーカーは何か掴んでいると思う。
オーディオでは、
デンマークにオルトフォンという
カートリッジメーカーがあるが、
レコーディングマシンのカッターヘッドの特性を
知り尽くしていることから
民生用のカートリッジの設計に
その特性を巧に利用
(ないしはネガをキャンセル)しているといわれた。
フジはコダックと並ぶ世界のフィルムメーカーであり、
色とその再現に関してノウハウを持っているようである。
デジタルの一眼レフとして購入したのは
ニコンD50。
作品を撮影するというよりは、
科学写真、生態写真、記録用にと購入した。
一眼レフの特性は科学写真で生きる。
それに、質実剛健なニコンへの信頼感もあった。
(かつてのニコンFとその系譜に対する憧れはむろんあった)。
そして、数年前から
ニコンのD7000を使用するようになった。
「四国の空と海のブログ2」で撮影した写真のほとんどは、
D7000によるものである。
被写体を見ながらISO変更、プログラムシフト、
手動でピント調整など
意のままに想定する結果に導くことができるという点で
中堅一眼レフはミラーレスに席を譲ることはないと思う。
ニコンの絵の主張は、実在感である。
(素材を活かすとでもいおうか)
色調を調えるのは後処理でもある程度対応できるけれど、
ぼく自身は人工的に彩度を高めたような画質は好まない。
そして、2013年。
新しい小型デジカメとして、フジフィルムのX20が加わった。

ボディは黒にした。
シルバーも良いが、目立たずスナップしたかったので。
まるでライツミノルタの再来のよう。
南紀白浜に連れだしたら、
フジ伝統の優れた色再現が確認できた。


人は、脳内で思い出を美化する。
写真を見るときも同様で、
人の記憶は実際の色よりも美しい色として捉えている。
それではと、撮影後に彩度を上げると
色が飽和して現実感が乖離する。


フジの色は、人が記憶をたどる際に
脳内で描く美しい色を
人工的な化粧感を感じさせることなく
微妙な濃淡や色調の変化を踏まえてつくりだす。
想像だが、
舞妓さんを主に、背景に桜、
手元にはおばんざいがにあって
桜のたもとの川面がシャドーに落ち込んでいるような場面があるとする。
X20は日本的とでもいいたいような
繊細な線で絵画のような画を提供するだろう。
このカメラが中上級の一眼レフに優る利点として、
ボディが小さく目立たないため、さりげないことは当然として、
条件が悪い場所での撮影に失敗が少ないことが挙げられる。
一眼レフと違ってミラーのない構造(ミラーショックがない)に加えて、
小さなセンサー、明るいレンズ、光学式手ぶれ補正のバランス。
さらに、ファインダーが付いていることも大きい。
ファインダーを覗くとき、
右手、左手とともに額で3点支持となっているから。
設定はこんな感じ。
フィルム設定は、プロビア(ほとんどこれ一本で事足りる)。
(ベルビアはやや行きすぎているよう。アスティアは緑の表情が良い。ポートレートならプロネガスタンダードで軟調にするのも選択肢。ただし眠くなりすぎるときはアスティアで)。
発色について例えるなら、
あるメーカーは、色彩の視覚的な効果を追わず、
やや重厚感を持たせた忠実な再現をめざす。
別のメーカーは、色彩の効果を意識した透明感のある
(やや演出がかっているが)切れのある色彩をめざす。
それに対してフジは、
色の濁りを極力抑えて忠実な再現をめざしながらも
純度の高さから来る発色の妙を感じさせるとでもいおうか。
ISOはオートだが、400以上には上げないよう設定。
ISO切り替えのシャッター速度は1/15秒に。
この設定では
ほとんどの場面ではISO100で撮影できる。
とっさのときにISO400に自動で上がってブレを防ぐ意図。
(シャッターチャンスを逃がさないのが一義なので)
さらに、2つのカスタマイズダイヤルには、
ポートレートに適した設定と
低照度被写体向けの高感度の設定を行っている。
通常モードのときの画質の設定は、
シャープネス(−1)、
ノイズリダクション(−2)、
シャドウトーン(+1)
DR 100%(ダイナミックレンジの拡張をしない)。
28mm相当。プロビア、f4 1/640 ISO100(jpegそのままを縮小したのみ)。
やや曇り空なので淡い色が飛ばず微妙な色の再現が楽しめる。

30mm相当 プロビア f2.5 1/250 ISO100(jpegそのままを縮小したのみ)
夕方近くで条件は悪い。一眼レフだとぶれる可能性が高い光線状態だった。
廉価ズームや高倍率ズームの一眼レフでここまで写るかどうか。

Photoshop Lightroom (4.4)は持っているので、
X-trans CMOSのRawデータも補正できるが、
この色再現を見ているとjpegのみで充分。
Photoshop Lightroom は
jpegでの補正も万全ということもある。
33mm相当 f4 1/800 ISO100

Photoshop Lightroom で補正したもの。jpegからも簡単に補正できるのでDRは不要であることがわかる(補正過剰であるが、わかりやすくするため)。

生態写真にも使える。広角端で撮影しているが、背景を写しながらクローズアップができる。
明暗の差が大きいが、ダイナミックレンジの拡大は使っていない。jpegそのままで、なぜこんなにイメージどおりの写りになるのか不思議だ。これは一眼レフでは再現できない世界かも。曇りがちな天気で逆光であるが、色彩もいい。
(プロビア 1/220 f2.8 ISO160 28mm相当 フラッシュ使用せず、DR100%)

その場の空気感を絶妙に醸し出している。春の午後の開けた沢筋に光がやわらかく回っている。(アスティア 1/300 f3.6 ISO100 43mm相当)

別売りのフードとフィルターは付けておきたい。
ただし、このフードは繊細なネジ式なので
(一眼レフのレンズのようなバヨネット式ではないので)
取り外しを頻繁に行うことは想定しにくい。
また、フードは常時付けておいても邪魔にならない。
むしろ、レンズをひねるスイッチオンの動作で
レンズ面(フィルター面)に手が触れる怖れがない利点がある。
撮影中はケースから出しているが、
ケースにしまうときもフード+フィルター付きのまま収納したい。
それができるエレコムDGB-S011(電気店で千円で購入)を使っている。
(色は目立たない黒。このカメラにポップな色の収納は似合わない)
運搬用のアンチショックや、悪天候時の運用にも使える。
X20本体
専用フィルター、専用フード、専用キャップのセット
液晶保護シール
コンパクトな収納とデザイン性を重視するなら専用ケース
(ただし、フード付きで収納できるかどうかは確認できていない)
純正バッテリーNP-50は予備がないと一日の撮影は心許ない。
並行輸入品がコストパフォーマンスが高い。
数社から販売されていて不安を感じる人もいるだろうが、
私が購入した バッテリーはA・J・I・T・Oという販社だが、
まがうことないフジの純正の英語版表記の製品であった。
何度か使っているが問題はない。
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X20については、さらに撮影して感想を述べることにする。