2019年10月19日

フジの色の再現性 

ブログでは縮小していて詳細は伝えられないが
原版では水の表情の美しさ、
自然界の濃淡と小石ほどの粒まで見通せるディティール、
何度でも見返したくなる濁りない色彩の透明度。
この色はフジでないと出ない。
DSCF6866.jpg

DSCF6869.jpg
(以上、X-T30)

特にX-Trans CMOSの第3世代の画像処理エンジン(X-T2など)と
第4世代(X-T30など)では色の再現性が違う。
第三世代では紫などが転ぶことがあったり
赤が飽和してしまったり。
この写真では水の色が違う傾向を示している。
ほぼ同じ場所で撮影したX-T2(第3世代)は前の2枚(X-T30=第4世代)とは色の傾向が異なっている。
(ホワイトバランスはいずれも晴天)
DSFT5440.jpg

ときにつくられた色を感じることはあるけれど
色を整理して人が描く好ましい色に再構築するのがフジ。
(RAWデータを引き算するときに好ましくない要素を取り除いた感じ)
意外なようだが、フジでは露出補正をほとんど行う必要がない(露出は正確)。
(Instagram向けの画像からは1/2段もしくは2/3段暗い感じ。他社と比べて1/4EV程度暗めの露出のようにも感じるが適正と思う)

キヤノンでは色を引き算することなく
すべての色を明るくあでやかに整えて
ハイライトに主題を置きたくなるのが特徴。
(その代わり存在感か空気感というのが感じられない。商業写真にはこれでいいのだろう)

ニコンは見映え重視にしないが
自然な階調のつながりがあって
同じ色のなかで無限の陰翳を出すことができる。
(ぼくはRAWで撮影してフラットに出力することがある)
例えば、カメラ内時計でもフジは誤差が大きいがニコンは少ない。
ニコンの一眼レフを使っているときの安心感は比類がない。
フジも性能に現れないつくりこみを見習って欲しい。

ソニーはコクのある色再現だが、ソニーの色が好きという声はあまり聞かれなかったように思う。
露出はフジと比べて1/3EV程度明るめの感じがする。
露出が足りないとやや色の濁りを感じることがあるが
このあたりにミノルタ、ライカの遺伝子を感じる。
作り物ではない存在感。
(ぼくは銀塩一眼レフではミノルタを20年使っていた。発色が好きだったから)

ソニーで色再現が向上していると思って
先日RX100M7を購入した。
1インチセンサーは画質ではAPS-Cに遠く及ばない。
(実写でも確認)
だが、被写界深度の深さが欲しい場面がある。
それならセンサーサイズは小さいほうが有利。
ただし暗所でのノイズと、
明るいところでは2,000万画素の解像感が活きることから
1インチセンサー機は万能に近い。
ソニーは物理ダイヤルが少ないため
操作性は犠牲になっているが、持ち運びが楽。

RX100M7ではこんな色
RXM00410.jpg

曇りの日に花を撮影したもので
RX100M7とX-T2を比べてみる。
RXM00245.jpg

DSFT5400.jpg
(前者がソニー、後者がフジ。ともにホワイトバランスは晴天、それぞれスタンダードな設定でJPEG出力)
曇天の日に晴天を当てたので発色がおかしくなっている。
ここでソニーをAWBにしてみる。
RXM00235.jpg

コントラストが高くメリハリがあるのはこのカメラの個性だが
RX100M1〜6までと発色が改善されているのが明らか。
ぼくは動画は撮らないしAFもそこそこでいいけれど
静止画を撮るときにJPEGそのままで使えるのは大きいと判断して
最新のRX100M7を選んだ。

ソニーとフジ
RXM00197.jpg

DSFT5233.jpg

第3世代のフジの色再現と比べてもソニーは遜色がない。
むしろ自然な感じがする。
それでもセンサーサイズから来る階調性、輪郭強調のないやわらかな質感、
解像度はAPS-Cのフジに勝てない。
(RX100M7は線が太い映り方をする)

1インチとはいえソニーは時代の最先端のセンサーを搭載している。
これを見ているとiPhoneはどれだけ進歩しても
専用カメラには遠く及ばないことがわかる。
輪郭強調と不自然なHDR、局所的な色再現の改善をAI認識のパターンで
加工を行っているのがiPhoneではないだろうか。
そこには実態のない写真風の絵があるだけである。
(見せようとした時点で壊れていく被写体がある) 

第4世代になるとフジはさらに深化している。
プロビア以外は使う必要を感じないほどだが
エテルナを使ってみるとこれがまた自然。
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DSCF6936-1.jpg

心にしみる写真はそのままでいい。

2019年05月04日

1年の大半を過ごせるジャケット


桜を眺めていたのがついこの間までで
季節はいつのまにか初夏へと。

連休中はやりたいことがたくさんあって
時間がいくらあっても足りない、
というかやりたいことが次々と出てきて
夜寝るのが先延ばし、朝起きるのが楽しみという日々。

もっとも連休が多いと収入は減少するけれど
それよりもやれることが多いことがうれしい。

→ パラレルワールド(異なる結末のブログ)に行く

この季節に重宝するのがモンベルのライトシェルジャケット。
・メッシュの裏地で適度なあたたかさ、吸湿性
・ウィンドブレーカーとは異なる適度な通風性
・雨具には程遠いが適度な防水性
・表面の処理で汚れを防ぐ性能
・窮屈さがない伸縮性能
・ハイテク繊維とは異なる綿のような肌触りの良さ
・軽量コンパクトで折りたためば掌に収まる(専用ポーチ)
・すぐに乾く扱いやすさ
これが7千円少々で買える。これ以上の服は要らないと思える。

モンベル ライトシェルアウタージャケット
https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1106647
(アウターに使うのでサイズは実物合わせで。ポケットがなくミッドに使うライトシェルジャケットと間違わないよう)
DSCF1682-1.jpg


ぼくは仕事に遊びに家事にすべての場面で使っている。
注文を付けるとしたらモンベル特有の色のセンスだけ。
(それが気にならないなら1年の大半を過ごせる。あまりに気に入っているので2枚目はプレゼントにもらった)

2019年01月19日

電子ペーパー(デジタルペーパー)という選択肢 富士通から新発売の電子ペーパー P01(A4サイズ、FMV-DPP01)


数年前にソニーが先鞭をつけてA4サイズの電子インクのビューワーを発売した。
タブレット端末が数万円ながら液晶が精緻で色の再現性がよく、
アプリケーションが使えてインターネットに接続できる。
それに対して電子ペーパー(デジタルペーパー)はモノクロの電子インクで
見られるのはPDFのみ。
ページ送りもページごとの切り替えという仕様で10万円程度。
それなのにデジタルペーパーが人気で
ソニーストアで販売された数量がただちに完売する状況が数ヶ月続いた。
https://www.sony.jp/digital-paper/products/DPT-RP1/
https://pur.store.sony.jp/digital-paper/products/DPT-RP1/DPT-RP1_purchase/

電子ペーパー(デジタルペーパー)は
AmazonのKindleなどの電子書籍は読めないがハード的には同様のもの。
ただしA4がページほぼそのままの大きさで閲覧できる可読性の良さがある。

世の中にはPDF化された文献がインターネット上で共有されている。
数百頁を超えるものもあるだろう。
それを必要なときに印刷して持ち運ぶとしたら手間も費用もかかる。

電子ペーパーでは1万冊程度のPDFが内部メモリだけで格納できる。
接続もUSB、Wi-Fi、BluetoothでPCとやりとりできる。
(情報拠点はPCがこれからも優位だろう)

ところがPDFを印刷しないで閲覧するとしたら適切な方法は見当たらない。
Kindleなどの電子書籍はPDFは表示できても画面を拡大しなければ読めない。
するとページ送りができなくなる。
(だから電子書籍では専用のフォーマットを採用して文字とそれに対応するレイアウトがストレスなく可変できるようになっていて書籍以上に目にやさしく読みやすくできる)

パソコンではデスクトップの大きな画面で長時間文字を追い続けられるだろうか?
ノートブックの横長の狭い画面で何度もスクロールして読み続けられるだろうか?
パソコンではバックライトによる目への負荷がある。
電子インクを採用する電子ペーパーでは原理的にブルーライトが発生しない。
さらに縦長の画面との親和性が低い。
もっとも多いA4縦のPDFは閲覧しにくい。
そのうえ持ち運ぶのには重量が気になる人もいるだろう。

そこでPDF専用のビューワーが必要となる。
ソニーのデジタルペーパー、2018年12月に富士通が発売した電子ペーパーがそれである。
この2機種、ハードはほぼ同じものでソフトの味付けがやや違う程度とされる。
http://www.fmworld.net/digital-paper/top.html

余談だが、文章作成ではいまもパソコンよりワープロ専用機が使いやすいと思っている。
大切に保存しているのは富士通の親指シフト機OASYS 30AFIII
http://museum.ipsj.or.jp/computer/word/0009.html

パソコンになってテキストエディターを使い、
キーボードもリュウド社、富士通の親指シフトキーボード、東プレなど
10数万円を投資したが、キータッチひとつ取ってもかつてのオアシスに遠く及ばない。
羽毛のような軽いタッチでありながら誤入力が皆無の打鍵感、
ものを掴む動作が人類の基本とされるがそれをキーボード入力に応用したのが親指シフト。
ワープロ専用機のオアシスでは
ほとんど音声入力を指でやっているかのごとく軽快だった。
(パソコンを使うようになって文字入力の作業効率は落ちたと思っている)。
富士通はインターフェイスを大切にする会社なので
今回の電子ペーパーはソニーのOEMであっても
ソフトウェアの作り込みで差異があるのではと期待している。

富士通の直販Webサイトでは
2019年1月末までキャンペーンでA4サイズが74,800円(税込)で購入できる。
http://www.fujitsu-webmart.com/pc/webmart/ui3211.jsp#item

サイズはA5が49,800円と値引き幅が大きいが、
PDFの閲覧という目的からすれば迷わず等倍で表示できるA4サイズを。
(画面を拡大できるがそれでは良さが失われる)
なお、一部の店でソニー製品もキャンペーンで同額展開をしているようだ。

電子ペーパーでは手書きの文字が紙のような感覚で書ける。
セキュリティーで保護されていないPDFならマーキングや書き込みもできる。
だから、大量の文書を閲覧、校正を行う経営者や学術機関の人たちは
このような機能を待望していたのだろう。

昨日届いたのでさっそく使ってみた。
パソコンに保存しているPDFファイルをどんどんコピーする。
専用アプリの操作性はわかりやすい。

本体は軽く縦長でも横長でもくるりと向きを変えて読むのは紙と同じ。
紙の可読性に比べれば環境照明が暗いところではやや劣るが
明るい場所では気にならない。
以下にサンプルを掲載。
DSFT1614-1.jpg

DSFT1617-1.jpg

収納ケースはこれがいいのではないかと。


2018年09月09日

関空の事故 北海道の大地震 自分の身を守れるか NHK総合テレビの音声をFMワイドで流せないか(災害対策の基本) ワンセグTV音声対応 おやすみタイマー搭載 乾電池対応 ホワイト XDR-56TV


災害の発生を把握できていない
台風の影響で関空が使えないことを知ったのは翌日の新聞だった。
北海道で震度7の地震があったことを知ったのは
その日の夜(地震発生後約16時間経過)。
無事を願いながらも時間の経過を言い聞かせるご家族…。
起こらなかった時間へ戻せない人生の無常。
(お悔やみを文字にしても何もならない)

南海トラフでスロースリップが起きている現状から
東南海地震はそう遠くないとみる。
今回のできごとから、
何が起こったかを迅速に知ることができていないと気付いた。

なにを持ち歩くか
仕事で持ち歩く鞄は重い。
脊椎が曲がるほどの重量なので歯ブラシ1本から軽量化したいところだが、
携帯ラジオはいつも持っている。
(東日本大震災に出張先で被災した教訓から)
販売中止にはなっているが電池寿命が長いのでこのラジオが決定版だ。

ICF-R351(レビュー) いつも持ち歩く携帯ラジオ。 もし、出張先や仕事で災害に巻き込まれたら…
なぜこのラジオを選ぶかは以下のとおり。
・明瞭度が高いが何時間でも聴いていられる音
・感度が高く混変調に強い受信性能(小型でありながら感度の良さ、選択度と音質の両立)
・単4電池1本で忘れた頃に電池がなくなる長寿命。
(ケースの底に単4をさらに1本追加している)

入手できる現行モデルは
ソニー SONY PLLシンセサイザーラジオ FM/AM/ワイドFM対応 片耳巻取り 名刺サイズ SRF-R356

ラジオが役に立つのはことが起こったことを知ってから
ラジオは確かに役に立つが、番組編成が役に立たないことがある。
先般、徳島を直撃した台風が上陸しようとする時間帯に
地元のNHK(945Khz)では野球中継が放映されていた。

そこでスマートフォンの活用が考えられる。
(今回の北海道の地震では緊急速報は届かなかった)
モバイルバッテリーを追加するのは気が重いが、
背に腹は代えられない。
スマートフォンとともにモバイルバッテリーを持ち歩くことに。
(スマートフォンは使用時のみ電源オンでバッテリーを節約。非常時に備えて普段は使っていない)。
モバイルバッテリーは重くて(456グラム)高価(約1万円)だが
この機種を使うことにした。
https://amzn.to/2QgJtHh
(3千円前後でも売れ筋があるが、やはり発火や安全性を考えるとコストは省けないと判断。フレッツ光のルーターにも給電できる)
ただしモバイルバッテリーとて充電は2〜3回分で数日を超える停電には対応できない。

情報源では災害時にもっとも役に立つのはテレビだろう。
だが停電時には使えない。
そこで家庭でいるときと出先での対応を考えてみた。

家庭では、テレビが使えなくてもその音声が得られれば利用価値が高い。
音だけ聴いても理解できるよう放送されているし、
ワンセグだと音声そのものの明瞭度が高い。

NHKの総合テレビの音声が利用できたのは地上波アナログでのこと。
(FMワイドバンド=90〜108MHzで受信できた)。
ところが数年前にデジタル化されてその方法は使えなくなった。
例え音声のみであってもテレビの音声は臨場感があって
耳から得られる情報が多い。
そして緊急災害時には放映時間が長い。
(少なくとも台風が上陸している地域で野球放送を流すことはない)

近年になってFM補完放送が一部の地域で行われるようになっている。
四国でも四国でも一部の地域で対応している。
FM補完放送とは中波の放送でテレビ音声ではないため、
中波で地元局が受信できる地域では利点はない。
http://www.soumu.go.jp/soutsu/shikoku/press/20160909.html

テレビの音声が受信できるラジオ。できれば文字情報も
ここまでを総括すると災害時は
乾電池で長時間使えるものでテレビの音声が受信できるラジオが最良ということになる。
さらにテレビでは枠外に字幕で放映される文字情報の価値が高い。
そこでデータ放送も表示できると理想的である。
データ放送では音声とは別に随時必要な速報や情報を流せる。
残念なのは技術的に容易であるにも関わらず、
2018年9月の時点でそのようなラジオは販売されていないこと。
妥協して現行機種で選ぶなら次のラジオだ。
(テレビ音声がワンセグ受信できるラジオが現実的な選択肢)。

ワンセグTV音声対応 おやすみタイマー搭載 乾電池対応 ホワイト XDR-56TV
SONY ラジオ XDR-56TV : ワイドFM対応 FM/AM/ワンセグTV音声対応 おやすみタイマー搭載 乾電池対応


(↑このラジオは白と黒が選べるが迷うことなく白を。暗がりで目だたなければ探すことが難しい。誰かに踏まれてしまうこともあるだろうから)

新たにテレビ音声対応のラジオを買い足すのは自己防衛策だが
国策としてみれば自宅にあるラジオで対応できるのが望ましい。
現時点ではかなりのラジオでFMワイドバンドが受信できる。
そこにNHKの地上波音声を流すのが現実的ではないだろうか。
そのための投資額が必要としても
さほどの費用はかからないだろう。
災害多発時代に税金の使途として有意義ではないだろうか。

追記
北海道の全島停電については各方面から指摘されているように
冗長性(というよりも現実的な想像力)が欠如している。
もし、これがこうだったら…と
ワーストシナリオをブレーンストーミングするだけで
そのリスクはあぶり出せたはず。
そもそも大規模集中の発電を広域に分配する考え方が間違っている。
少なくともブロック単位で独立した発電ができうるはず。
理想は小規模分散型によるリスクヘッジ。
再生可能エネルギーを家庭、集落、地域に設置して蓄電して使うことが理想。

中小企業・小規模事業者の災害対策の要点をまとめたのはこちら
災害対策 何から始めるのか どこまでやるのか(事業継続力強化計画)
タグ:ラジオ

2018年07月21日

クリプトンKX-1に合わせるアンプ〜PM-12とPM8006〜


所有しているクリプトンのKX-1
オンキヨーのA-1VLというプリメインで鳴らしている。
購入したのは2005年だったので13年使っていることになる。

このアンプはデジタルアンプで音抜けが良いのに
メリハリをねらった強調感がなく、ストンと抜けてくる。
抜け味の良さというか、音離れの良さ、
それがそよ風のようにひきずらないので耳に心地よい。

これまで店頭でヤマハ、ラックスマン、ソニー、デノン、マランツなどと
KX-1を組み合わせて聴いたが納得感は得られていない。
音の塊感と艶やかさでラックスのA級(L-550AXII)に惹かれたけど
エアコンを置いていないので夏場の室温は30度を超えている。
聴きながら眠っていることが多いのでA級は避けたい。
(やはり発熱の多さがネック)
また、どの音楽ソースも同じように艶やかなハイファイ調で鳴らしてしまうのが難点。
カフェなどで鳴らしていたらうっとりするのだろうけれど
いつもいつもマリリン・モンローでは飽きてしまうかなと。

現役機種で行き着いたのはマランツのPM8006
これは音楽がよくうたう良質のプリメイン。
上級機種のPM-14S1やPM-10との比較でも
目を閉じて先入観なく聴けば8006を選んでいる。
音楽がレガートに聴こえる、というと楽器を演奏する人にはわかりやすいだろう。
艶やかな高域が音楽の輪郭を浮かび上がらせる。
この音はきっと海外でも売れるはずである。
上級機とは音づくりのチームが違うのだろう。
デザインもいいし音量調節が無制限に回らないのもいい。
夜中に小音量で聴くので小音量再生を重視している。
(大音量で再生できるのは金持ちが地下につくった専用の部屋でもなければ困難)
8006には良質のデジタルヴォリュームを採用しているのも小音量再生に貢献しているし
パワーアンプが肥大化しないのも利点。
ハイエンドのプリメインはほとんどパワーアンプという印象で
出力が大きくなればそれに伴って
熱や振動、消費電力、リーケージフラックスなどが増加。
小音量で聴くのなら大きなパワーアンプは不要。
この機種は下位の機種と比べて良質な部品が使えるうえ
上位の機種と比べてパワーブロックを身の丈に収めることができる。

きょうは出張でヨドバシのマルチメディア館に来た。
朝一番で誰もいないので
KX-1を固定してPM8006を原器にプリメインを切り替えて視聴を行った。
ネットワークプレーヤーはソニーである。
ソースはノラ・ジョーンズのファーストアルバム。
よく聞きこんでいる音源がたまたまソニーに流れていた。



まずはPM8006
これだけを聴いているとどこにも不満がない。
音楽が朗々と響くけれど誇張された感じはしない。
絹のようなレガートな高域と弾む低域で
愉しく美しく聴かせる。
アナログプリメインとしての絶妙のバランス、完成形と思う。
高域がきついとか、低域がだぶつくとか、局所的な不満はまったくない。
ただ音楽に集中できる。
アナログらしさがうかがえるのは
レガートな高域と表したように、わずかなエコー感を感じるからで
これが人間の聴覚に安心と安らぎを感じさせているのだろう。

続いてPM-12。
発売してそれほど日が経たないのでエージングが進んでいない不利な点がある。
高域の艶やかさは8006が上回るため、
一聴して8006が好きという人は半分ぐらいはいるだろう。
グレードのとらわれずその音が好きになるかどうかで判断すればいい。
比べると8006が華やかでやや派手な感じがする。
8006だけを聴いていると端正な音と思う人もいるだろうが
PM-12と比べるとジュースとミネラル水のような違いがある。

しかし声の存在感、空気感というか
声の肉声として空気を震わせるうたい分けはPM-12でないと出ない。
特に異なるのは中域、中低域の押し出しである。
8006は豊かな低域と艶やかな高域が音の輪郭と弾む感じを演出していると気付く。
(それはそれで良いことではないだろうか。聴き手を楽しませるのだから)

長い時間、音楽に接するのならPM-12ではないか。
前機種のPM-14S1は8006と比較試聴して
律儀で抑揚に乏しいが音の強調感が疲れる感じがした。
ところがPM-12では前機種のPM-14S1と比べて音調は一変している。
似ているのは型番と価格帯だけで
設計思想が違うのだから当然なのだが、
12では高域のきらめきが抑えられた分、
輪郭は8006が明快に聞こえるが
12が中域の密度感が高く、わずかな空気のそよぎをスピーカーに展開させる表現ができる。
同時に比較はできないが抜けの良さはオンキヨーのA-1VLが上回る。
(オンキヨーを持っている人は大切に使われるといい。このアンプは接点が少なくシンプルな回路設計、無理のない筐体と発熱が少ない電源なので長期にわたって安定的に使える。ぼくはオークションには出すつもりはないが、13年使っていても次の使用者が劣化を感じるようなところは見つからないだろうと思う)

前述のようにPM-12は音の押し出し感があるのに一聴しておとなしく聞こえる。
そのなかに微妙な音の描き分けをしている。
長時間音楽に浸れるアンプであることは間違いない。
それなのに、顕微鏡的(オーディオマニア的)な接し方をしても
それに応えてくれる。
ノラ・ジョーンズをレイドバックしてくつろぎながら聞きたいなら
よくうたう8006よりも12。
12は決して蒸留水のような音ではない。
旨味を含んでいるが砂糖や保存料は入っていない
天然ミネラル水のようなアンプだ。

外気温が30度を超えるこの日の東京であったが
天板に触れてみると少しあたたかくなっている程度であった。
(8006も発熱が多いとはいえないが、PM-12はさらに発熱が低いようである)

ぼくはこのアンプをクリプトンを鳴らす最終版として決めてもいいと思っている。
もちろん好みによって8006を選んでもそれはそれでよし。
8006は音楽をわかりやすく鳴らすから。
でもPM-12は聴き手の感性と耳によってはどんどん深淵を見せてくれる。

追記

最上級機種のPM-10と両機種も比較視聴している。
10はエージングができているせいか
音楽の透明度が12を上回る。
けれど音楽を語るという点では遜色がないように思う。
10は筐体が大きいうえ、価格の違いも大きい。
お金を別の有意義なことに活かせるのでぼくなら12を選ぶ。
PM12は、濃淡と塊感がはっきりしているので
微妙な音の差異が聞き分けられる反面、
音場と音の粒子が溶け合うような表現は望めない。
これは次世代機での課題だろう。
そこにPM-8006の存在意義がある。
8006は中域の密度感が高まると再生音が一変すると思う。
これも次世代機での課題。
タグ:KX-1