2016年09月04日

牧野富太郎の植物図鑑を購入 

およそ植物に興味がある人で、
牧野富太郎博士を知らない人はいない。
いや、植物に興味がなくても知っている人は多いだろう。

きっかけは、高知新聞社が生誕150周年を記念して作成、
北隆館から刊行された「MAKINO―牧野富太郎生誕150年記念出版」を購入したことだ。
この本に興味を持ったきっかけが、佐川町を通ったときに看板に誘われて
越知町の横倉山自然の森博物館にふらりと入ったことだった。

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タグ:植物図鑑

2014年10月06日

「小売業のための利益改善&能力開発チェックリスト1000」。社員に気づきを与えるきっかけをつくる。


企業は自らの世界観が描ける範囲で人材を獲得できる

企業は良質の人材が欲しいが、なかなか思うような人材が得られない。
名著「ビジョナリー・カンパニー」いわく、
企業は何をするかではなく、
どんな人を集めるかから始めるべきと説く。
行き先は船に乗る乗組員(社員)が決めるというわけだ。

とはいえ、
人を入れ換えるのが簡単にいかないことは誰でも知っている。
社員は生活がかかっているし、
そもそも企業に夢や世界観を描いて実現できる力がなければ
魅力的な人材は得られない。

社風が社員に与える影響は大きい。
中小企業の社風を決定しているのはトップであることは間違いないが、
そこに血肉を与え、経営者の思いから飛び立とうと
自分たちの社風を現実化しているのは社員である。

仕事の動機は必ずしも給与ばかりではなく、
むしろそれ以外の要素が大きいように感じる。
小さな企業であっても
高い理想を描いてどこまで飛ばせるか(=行動力)が
大切ではなかろうか。そこに人は惹きつけられる。

社員の気付きから始まる

ゼロ成長の時代だからこそ
組織の一人ひとりが考える、洞察する、実行することが求められる。
良い助言者が見つかれば、
その気付きを与えてくれるが、なかなか見つからない。

稀少な理由は、
洞察力に裏打ちされた偏らない専門性を備えていること
(広く深く知恵が体系化され、それが整理されているともに自在に取り出せる人)、
そのうえで人間的な魅力があって
人々を惹きつける人物であること。

そんな人がいれば、
例え同じことを言ったとしても言葉に深いメッセージが加わるはず。
それが説得力である。
企業が伸びるためには
個々の社員の心のあり方や態度が大切であることは言うまでもない。
個の力の集合体としてのチームワークも高まっていく。
そこにあるのが「気付き」である。

気付きをもたらすもの

「気付き」とは専門性(ノウハウなどの技術要素)と
人間力(心理要素)が合わさって触発されると考える。
ノウハウの部分は
実務に携わる人たちが現場で磨いて保持しているもの。
答えが具体的に載っているハウツー的なコンテンツなどは
一見して役に立ちそうであるが、
著者の得意な土俵に誘導されていることに気付かないと、
マジックを見せられているような気分になるだけ。

普遍性がないのは、
特定の土俵の限られた条件で成立した事例の本質を
抽出しないまま取り込もうとするから。
つまり、課題の抽出ができる洞察力や
そのためのプロセスを確立できる人でなければ
本質を見誤る怖れがあるのだ。

プロフェッショナルとは、
まさに課題解決能力を持つことにほかならない。
その気付きのきっかけとなる書籍が発刊された。
利益改善&能力開発チェックリスト1000」(商業界、2014年9月9日刊、1,800円+税)である。
小売業のための利益改善&能力開発チェックリスト1000

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全国で実務に携わる人たちが
利益改善、能力開発(部門別、職能別、職位別)という切り口で着眼点を表にしたもの。

利益改善では、
・店舗レイアウト
・店舗運営
・商品政策
・商品陳列
・接客技術
・販売促進
・人材教育
・競合店調査
・経費管理
・法令遵守
などに分類されている。

商業界」からの出版なので
流通業で使いやすいのはもちろんだが、
今日の製造業もお客に魅せる場を持っているはずなので応用できる。

著者はチームフェニックスと名付けられた
全国に散らばった7人の実務者。
彼らは、パフォーマンスとは無縁なところで実務を磨きつつ、
普遍化したノウハウをチェックリスト化したもの。

いわば実務から産み落とされた知であり、
ハウツー本でもなければ
学者の書くようなアカデミックな内容とも無縁。
これからリーダーや部門長をめざす人が
セルフチェックをかけるために使ってみると良いだろうし、
創業しようとする人にとっても創業塾で学べないような内容である。

個々に内容を見ていくと

例えば「人材教育」の項目では、
50のチェックリストが分類して掲げられている。
リーダーの行動として、
「自説を一方的に演説するのではなく、聞く時間をできるだけ長く持つことで、部下の状況の把握や言い分を理解し、そのうえで的確な導きを行っている」と短く書かれている。この一文に照らしてもリーダー失格の人材は少なくないだろう。部下の言い分に耳を傾けないのは組織の利益のみならず、大切なやる気にストップをかけ、自由闊達な風土が失われてしまう。けれどこのようなリーダーは発言力があり、一見頼もしく見えることもあるので始末が悪い。」


チェックリストはさらに続く。
「リーダーは、必要なときにはためらわず、自分の人生経験に基づいて諭し、説得を行っている」。


一見その前の項目と矛盾しているようにも見えるが、
必要なときとはそれが効果的なタイミングを見計らって
あえてやるという意味だろう。
これができるためには、
人間への限りない洞察と愛情が求められる。
しかしそのリスクを背負って説得するには
決断力も必要との著者の思いが見えるだろうか。

DSXE5691-1.jpg

このように、各項目50のチェックリスト、
全体で1000のチェックリストは具体的な行動で記述されるとともに、
後半ではそこに至った各著者の世界観が語られている。
人材教育の著者の項目では次のように綴られている。
 
「変化に対応するだけではなく、変化を創造していくことが求められる今日の流通業で、世代のギャップを感じながらの人材教育は、守り(規律を維持し不満を生じさせない)と攻め(創造性を引き出し満足度の高い成果を生み出す)の両面から考える必要があります。守りと攻めは相反するものではありません。自由闊達な社風には規律が不可欠であり、規律ある風土があってはじめて夢や挑戦は羽ばたくのです。
 攻めと守り―─その線引きを行うために複雑な仕組みは不要です。大切なのは、企業の理念やメッセージ、世界観を全社員(パートタイマーを含む)が共有することです。理念が本当に浸透すれば、どのように行動すべきか「行動規範」が見えてきます。
 企業にとって人材育成は目標ではなく手段です。そして、人材の生み出す成果が業績を左右します。人材育成は、内部環境や顧客、地域との相互作用によって磨かれるもので、どのように人を育て、何を求めるか、そこにはモノサシが必要です。」

(引用ここまで。引用、写真撮影に際して著者及び出版元の承諾を得ている)
 
著者の世界観に照らしてチェックリストの項目を読めば、
背景と本質が見えてくる。
それが理解できれば
自社にカスタマイズして使ったり、
朝礼で音読してチーム内で意味を考えて
チェックリストの項目とリアルな世界が
どのように実感できたかなどを語り合うと良いだろう。
会議の場ではブレーンストーミングの教材として、
チェックリストの真意はどこにあるか、
自社ではどのように落とし込むかなどを話し合うことができる。
うまく活用できれば、読み手の理解と成長を促す機会となる。



 → 「本のソムリエ」1分間書評動画でも紹介(YouTube)



2013年05月11日

体幹を意識して歩き、五感にスイッチを入れる。わかりやすい山野草はこの図鑑で

見ればみるほど見慣れない。
新種か?とわくわくした。

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ここは上勝町の旭川沿いの散歩道。
遊びではなく、仕事で来ている。
複数の訪問先の間にこの遊歩道があるため、
歩いてみた。
地元のみなさんが「花の散歩道」と名付けた
川沿いの花の小径である。

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さっそく持ち帰って、
「山渓ハンディ図鑑」の野に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)を最初からめくってみる。

徳島で見かける山野草の同定には
「野に咲く花」か、
同時に改訂された山に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)
に掲載されていることが多い。
詳しいのにコンパクト。
二十数年ぶりとなる2013年春に改訂増補されたもの。
写真と文章の量が適切で
現時点でもっとも使いやすい山野草の図鑑と思う。
(これに似たような図鑑は他社から販売されていない)

その花は「野に咲く花」の469頁に掲載されていた。
サギゴケ(ムラサキサギゴケ)という。
(写真が鮮明でクローズアップもあるので一目でわかる)。

「サギゴケ」の撮影日時は
「2012.4.30 八王子市」となっている。
(撮影日と撮影場所が記されている)。
改訂に伴い写真もグレードアップされたものと思われる。

徳島県の那賀川中流域にしか分布しないという
ナカガワノギクもワジキノギクも518頁に大きく掲載されている。

辺り一面に咲いているのはシャガ。
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「高山に咲く花」も改訂が予定されているが、
四国にいる限り、
「高山〜」の必要性は感じない。
それでも眺めるだけで楽しいので
ぼくは持っている(旧版だが)。






新しいヤマケイのこのシリーズは、
DNA分析に基づく分類がなされており、
現時点で最新の植物図鑑といえる。
全景とともに、部分のクローズアップが掲載され、
同定しやすい。
また、類書と比較して写真も比較的新しい。

DSCF1955a.jpg

似たような花だが、これはカキドオシだろう。
452頁にクローズアップの写真があって同定できる。

600頁を越える図鑑を最初からめくっていくのは
時間がかかりそうだが、実際はそうではない。
似たような種類が集まっているので
読み飛ばしていける。

名前を見て説明を読んで納得。
こうしてみると、
人はイメージ(絵)だけを記憶するのではなく
それに論理的要素や記述を連関させて
脳に刻んでいくことがわかる。
イメージの固定とでもいおうか。
逆に文字や論理からイメージを引き出すこともできる。

自分の脳の動きを意識する、
自分の身体の幹(体幹)を意識する、
これを日常的に無意識に行っているようだ。

山を歩くとき、とりわけ最初の半時間、
もしくは傾斜がきつくなるときなど
ぼくは意図的に歩幅を小さくする。
(かかととつま先が接近するぐらいの小さな歩幅)。

足の裏は斜面を自在に捉えるよう力を抜く。
体幹はぶれないように丹田に意識を置く。
いわゆるナンバ歩き。
何時間歩いても疲れないという不思議さ。

→ この本で体幹とナンバ歩きの知識を修得した。
身体意識を鍛える―閉じ込められた“カラダのちから”を呼び覚ます法

ナンバ歩きは日常にも応用できる。
重心の移動によるエネルギーの損失がないことと、
体幹がぶれないことで
荷物が多いとき、
疲れたときに有効だ。
楽なだけではなく、
ナンバ歩きのさらに優れたところは、
とっさにトラブルを避けられる可能性が高いこと。
(近年ではオリンピック選手を中心にナンバ歩きの動作を取り入れるアスリートが増えている)
ぼくは無意識にナンバ歩きを行っているが、
見る人が見なければ、ナンバ歩きだと見抜けないと思う。

歩くことは
五感のセンサーをすべて活用する高度に知的な遊び。
スマートフォンをいじったり
iPodを耳に接続することで
五感のスイッチを切ってしまうのは
もったいない気がする。

だって、日常のなかに宝物はいっぱい隠されているのだから。

(花のクローズアップはフジフィルムのX20。jpegそのままをトリミングしただけ。色彩は落ち着いているのに抜けがよい)
タグ:植物図鑑

2012年09月19日

野山、高山の植物図鑑を選ぶ(選び方)



野山へのハイキング、登山などで出会う植物の名前や生態がわかったら、
もっと親しみが沸くに違いない。
そう思う人のために、山野草、高山植物の図鑑について調べてみた。

一冊ですべてを満たす図鑑はないということを前提に、
優劣ではなくこんな場面では適しているという切り口で探ってみた。

1. 身近な山野草の名前を知りたい(ある程度もれなく有名な山野草が網羅されていて欲しい)

「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑

図鑑では主として名前がわかれば良いという用途なら、
ある程度収録点数が多いことが必要。
なぜなら、掲載されていないものは見当すら付かない。

そこで、植物の生育場所に広がりをもたせてあるのがいい。
例えば、西日本で高山植物といっても、
本州では低山に生えているかもしれない。
慣れてくると、住んでいるところの分布に適した図鑑がわかるようになるが、
最初の段階では守備範囲の広い図鑑を求めてみたい。

ただし、初心者が高価な図鑑は揃えてもムダになりそうな気がする。
そこで、植物名がわかれば、別の上級図鑑や百科事典を当たってみる
という使い方を想定した。

使う場面としては、現地に持ち出すのではなく、
写真やスケッチをもとに、自宅に戻って同定するという用途を想定する。
そんな場面にぴったりなのが、
「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑」である。

四国の剣山で見つかる花を検索しようとしたら、
実はぴったりの図鑑があまりない。
(高山植物では、本州が中心となるのはやむをえない)。
山野草では、四国固有の亜種が掲載されていない。
例えば、次のような花が一般的に見つかるのだが、
これらを一冊で網羅しているのは、実は上級図鑑でも見当たらない。
「キレンゲショウマ」「シコクフウロ」「ヒメフウロ」「ソバナ」「アワコバイモ」

この図鑑は、日本に自生する主な山野草を網羅したもので、
季節別に「野の花」「山地の花」「海岸の花」が調べられる。
新しい植物分類体系にも対応した2010年発行の新しい山野草図鑑である。

欠点は、1000品種という類例のない掲載点数のため、
写真がやや小さめで説明も簡潔であるという点。
(ただし、この1000品種の選び方が絶妙である。前述の「アワコバイモ」は基準図鑑の位置を占めている平凡社にも掲載されていないのに)
しかし、前述の目的からは、むしろこのコンセプトが適している。
また、アカデミックな解説は省いているのもわかりやすい。
園芸愛好家的な視点の好著といえるだろう。

価格: ¥ 1,575
単行本: 207ページ
出版社: 主婦と生活社
発売日: 2010/05
寸法: 21 x 15 x 1.6 cm




2. 持ち運びでき、わかりやすい図鑑

週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

ひきやすく、持ち運びができ、わかりやすい
山野草や高山植物の図鑑が欲しいという人には
週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)」がいい。

その特徴は以下のとおり。
・花の色別にひける。
・1頁に2品種で見やすさとアイテム数を両立。
・生態写真(全景と生えている場所)に加えて、花、葉の特徴的なアップの切り抜き写真(これが売り)。
・著者は新進気鋭の山岳カメラマンで撮影品質が高い。
・花期、高さ、分布が反転した囲みで一目でわかる。
・生育場所がアイコンで示されている。

全国の丘陵地、低山、深山、高原などにみられる代表的な花を、
写真掲載種約290種をはじめ、文中紹介種も含め約450種紹介したもの。
かゆいところに手が届く親切さがうかがえる図鑑で、
後に、大きな図鑑を買っても決して邪魔にならない。
就寝前に音楽を聴きながら、この図鑑を眺めるのが楽しみである。
西日本の人は、本書で地元の山野草はある程度カバーできる。

価格: ¥ 1,155
単行本: 174ページ
出版社: 小学館
発売日: 2011/4/1
寸法: 17.2 x 11 x 1.6 cm  



同じ著者の高山植物編もある。
高山植物ハンディ図鑑 (小学館101ビジュアル新書)

価格: ¥ 998
単行本: 174ページ
出版社: 小学館
発売日: 2011/4/1
商品の寸法: 17.2 x 11 x 1.6 cm




3. 手元に置いて照合するために

現地には直接持ち運ばないけれど、
名前のわかっている山野草や高山植物の学術的な説明も交えて知りたい、
あるいは、撮影やスケッチをしてきた山野草や高山植物を
ひとつずつ照合していきたい、という用途には、
やや分厚いながら良い図鑑がある。

山と渓谷社は、文字通りこの分野を専門に扱っている出版社であるが、
専門老舗の信頼感と実績ではぴかいちである。
決して安価とはいえないこの「日本の野草」も累計50万部を販売したという。
しかも、1983年に初版が発刊されて以来、
四半世紀を経た2009年に満を持して発刊された増補改訂新版である。

定評ある写真に加えて、最新の学術情報を新たに加え、
さらに、製本技術の改善により造本の耐久性を高めた。
図書館で借りてきた旧版と比べると
色の再現性が向上しているようだ。
(やや見た目が鮮やかな記憶色の設定のように見受けるが、新しい図鑑ではこの傾向がある。このことは図鑑を見るのが楽しくなる一因となる)

図鑑のヤマケイが送る定番の山野草図鑑。
安価ではないと書いたが、ケータイ電話の一ヶ月の支払料金と、
この図鑑に費やされた労力と成果を比べてみれば、
決して高い買い物でないだろう。

カラー名鑑 増補改訂新版 日本の野草 (山溪カラー名鑑)

価格: ¥ 7,980
単行本: 736ページ
出版社: 山と渓谷社; 増補改訂新版
発売日: 2009/10/23
寸法: 20.6 x 19.6 x 2.4 cm






同様に高山植物編もある。
エーデルワイスのように、
過酷な環境でひっそりと山の稜線や谷間に息づく高山植物は
ただそこにあるだけで愛おしい。
その表情を豊富な写真、専門的な解説で日本の高山植物953種類を徹底収録。
双子葉合弁花類―335種類、双子葉離弁花類―352種類、
単子葉類―197種類、裸子植物―14種類、
しだ・こけ植物―40種類、地衣植物―15種類という構成である。

日本の高山植物 (山渓カラー名鑑)

価格: ¥ 4,720
単行本: 719ページ
出版社: 山と渓谷社
発売日: 1988/8/1
寸法: 20.8 x 19.4 x 3.8 cm

もう一冊定評のある図鑑を。
★「フィールド版 日本の野生植物 草本」
『日本の野生植物』全3巻をハンディな図鑑として1冊にまとめた。

掲載種類の多さは類例がない。
およそ山野草を眺めることを楽しむ人は持っていると思われる。
この資料は、当時の日本の専門家の力を集大成したものであり、
現在の植物図鑑は多かれ少なかれ影響を受けていると思われる。

3冊に分かれている卓上版の記述は詳しい。
しかしこのフィールド版では:
山野での携帯に便を図りつつ、
カラープレートは総704頁に及ぶものの解説は簡略化した。
科や属の説明は除き、属と種の検索表を残し、
種の記載は野外で必要な最小限度のデータに絞ってある。
日本の種子植物3700種より草本植物2776種、3234点を収録し、
種の識別に必要なデータおよび「科の検索」を付した。

もともと3冊に分かれて収納されていたものを
フィールドで使いやすいようにコンパクト化し、
1冊にまとめたもの。
そのコンパクト化が絶妙といわれているもの。
(例えば、写真のページと記述のページを明確に分けてあるフィールド版のほうが、卓上版よりも探しやすいのは間違いない)

ただし、写真の撮影年度が古い(70年代〜80年代前半)ため
カラー印刷の鮮鋭度はここ十年程度に発売された図鑑に叶わない。

価格:¥ 8,190
ハードカバー: 300ページ
出版社: 平凡社 (1985/02)
言語 日本語
発売日: 1985/02
寸法: 19.4 x 14.4 x 4.2 cm





図書館で借りたものも含めて使い込んでみて思ったことを最後に。

1冊の図鑑ですべてを賄うものはないということを改めて確認できた。

同じ植物が図鑑(写真)によっては別物に見えることもあるなど
図鑑を利用する人は、複数の図鑑を持つ傾向があることは間違いない。
(持つ必要があるし、持つことは楽しいともいえる)

そこで、以下のような読者を想定し、その人に合う図鑑を選んでみた。

仕事は多忙であり、自然の空間に出かけることは喜びと感じる。
ただし、リタイヤ後の人たちがそうするように、頻繁に行くことはできない。
高山ばかりではなく、身近な河原や草原など、数時間程度の散策がどちらといえば多い。
それゆえ高山に憧れるので、図鑑で夢を見させて欲しい。

そこで、まず一冊。
なるべく多くの種類が掲載されており、いつも辞書として繙く図鑑であって
定評があるものといえば、平凡社の日本の野生植物である。ここではフィールド版を挙げておく。

ごの図鑑の良いところは、類書と比べて圧倒的に掲載数が多い。
野生植物の括りであるため、高山から低地まで一冊でカバーしている。
検索表が付属し、同定のポイントが簡潔に記されている。
多くの専門家が参画したことで、地域性を持つものまである程度記載されている。
ここでの記述がその後の植物図鑑の基準となった感がある。
掲載されていなければ、手がかりが掴めない。
しかしこの図鑑では、大概の植物が揃う。

例えば、類書に掲載されていない四国変種、ないしは四国希少種としては、
シコクイチゲ、オトメシャジン、タヌキノショクダイ、キレンゲショウマ、テバコマンテマ、
ナンゴククガイソウ、イシヅチテンナンショウ、ウナヅキツクバネソウなどがある。
また、本書でも掲載されていない四国変種としては、
トサコバイモ、アワコバイモ、トクシマコバイモ、イシダテクサタチバナなどがある。

欠点があるとすれば、コンパクトで内容が豊富なため、写真が小さいこと。
写真の撮影年度が古く、当時のフィルムや版下などの劣化が想定され、
写真の鮮鋭度はいまひとつである。
しかし、それを補うのが掲載種の多さと引きやすさである。
植物や花の好きな人なら、必ず一冊は持っていると考えられ、
今後これを越える専門家の参画による編集は考えにくいこともあって
まずは標準として揃えたいもの。

フィールド版 日本の野生植物―草本

次に、写真の美しいシリーズでは、
山と渓谷社の「山渓ハンディ図鑑」シリーズにとどめをさす。
分冊化されたため、コンパクトでめくりやすい。
なんといっても売りはクローズアップを含む写真が多いことと
同定のポイントが簡潔に示されていることもあって
眺めて楽しい図鑑ということでは最右翼である。
歴代の図鑑では、写真の美しさでは出色で、
その白眉は発刊が新しい「高山に咲く花」ではないだろうか。

心をうきうきさせるだけでもこの図鑑の価値はある。
シリーズのなかでは売れ筋の「山に咲く花」が絶版となっているが
近い将来の再版(もしくは改訂版の発売)が期待される。

→ 2013年3月に改訂版が発売 
山に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)

野に咲く花 増補改訂新版 (山溪ハンディ図鑑)



ただし、分冊となっている図鑑を合わせても
変種を含めた掲載数は平凡社が多いと思われる。

野に咲く花 (山渓ハンディ図鑑)

高山に咲く花 (山渓ハンディ図鑑)

山に咲く花―写真検索 (山渓ハンディ図鑑)


私のように植物の心得がないものには
(地学と生物が選択で地学を採ったため)
これらの図鑑をいきなり使いこなすのは難しい。

そこで役に立つ入門書が2種類。

増村征夫著「ひと目で見分ける250種 高山植物ポケット図鑑」

新井和也著「週末ハイキングが楽しくなる花の図鑑」

などの入門書である。
それぞれ、250種類、450種類と少ないが、文庫本サイズであり、気軽に手に取れる。
全景写真のほかに見極めのポイントがクローズアップやイラストなどで示され、
しかも花の色別に並べられている。
おそらくどんぴしゃりの花が見つかることは多くないと思われるが、
特徴が似たような花は見つかる。
今度は、その属や課ごとに分類されている図鑑で調べてみると
「あっ、あった」ということになる。

その意味でこの2冊は徹底的に眺めて(暗記する必要はないが)
なんとなく花とそのイメージを頭に入れておくための練習用にも使える。
時間のあるときに、飽きるほど眺めて、徹底的に「科」「属」の特徴を
右脳にたたき込むのだ。このことが、上級図鑑を活用する際に生きてくる。


ひと目で見分ける250種 高山植物ポケット図鑑 (新潮文庫)


週末ハイキングが楽しくなる 花の図鑑 (小学館101ビジュアル新書)


以上は、「想定される読者」に近い私が、
実際に図書館で借りたり、購入して判断したもの。
ハイアマチュアや専門家の見解とは異なるかもしれないが、
私のような初心者がたどる道筋として
納得される方もいるのではないだろうか。

















タグ:植物図鑑

2012年08月28日

「無人島に生きる十六人」


 ときは明治の半ばのこと。帆船の龍睡丸(中川船長)は、北方の島と内地をつなぐ連絡船の役割を担っていた。冬の間は氷で閉ざされて仕事がないことから、南方の海で海洋調査を行おうと出港した。ところが、運悪く日本の南方海上で強風のため投下した錨を失ってしまう。さらに猛烈な風で帆柱が折れた。そこで船長は、海流に乗ってハワイに到達し、そこで本格的に修繕を行って日本へ帰ることとした。
 ハワイで修繕を終えたあと、ミッドウェー方面へ向かって、暗礁を避けながら島伝いコースで日本へ戻る航海を開始した。このコースは座礁のリスクはあるものの、食糧となる魚が捕れること、島で真水の補給が可能である。ところが、強風で緊急停泊中にまたも錨が切れ、風に吹き付けられて珊瑚礁に座礁してしまった。打ち寄せる波で船が大破するまで数時間と予想できた。
 座礁地点から少し離れた場所に岩があった。そこで船に搭載されていた伝馬船に運転士と水夫長が乗り込み、岩への上陸をめざして波の静まる合間を見て本船から投入したが、大波に呑まれて転覆した。しかし、次の瞬間、ひっくり返った伝馬船が岩に乗り上げられ、2人の乗組員もなんとか岩に這い上がったことが確認された。一同に安堵の空気が拡がった。伝馬船が沈没すれば海上を移動することができず、例え十六人全員が岩に上陸できたとしても数日も持ちこたえられなかっただろう。
 先に上陸した2人が岩にロープを張り、乗組員全員十六名が船から岩にロープを伝って上陸できた。難破生活で役に立ちそうなものを可能な限り岩に運び込んだ。この辺りは映画のような描写である。
 伝馬船は、本船から運び出した物資と乗組員を乗せて、十六人が生存できる島をめざして船出した。ほどなく、小さな砂浜を認めて上陸した。
 そこは、ミッドウェイ諸島の一角、パール・アンド・ハーミーズ礁の小さな島。標高は2メートルで樹木はなく真水もない。水と食糧が見当たらないなかで、船長以下十六人が一致団結し、ルールを決めて、島の暮らしを楽しみながら帰還のためのあらゆる方策を考えて実行したのがこの物語(実話)である。外国の難破物語では、考え方の違いで派閥や争いが生まれ、組織が破滅する筋書きが少なくないが、我が日本の船員には無縁であった。
 大破した母船の木片が漂着したので砂浜を盛り上げて見張り矢倉をつくった。1メートルでも視野が高いと水平線の見える範囲が拡がるためである。
 真水の確保は、雨水を貯めるとともに、非常用に蒸留装置も開発した。さらに、草が生えていることから海面に達しない浅い井戸を掘って、にじみでる水を溜めるしくみをつくった。
 塩づくりにも成功し、食べ物の味わいが飛躍的に改善した。
 食糧については、魚釣り(道具も手作り)、ウミドリの卵、ウミガメの捕獲などで調達した。特別な日には数少ない缶詰を楽しんだ。雨の日には各自がみんなの前で物語をした。若い訓練生には、勉学の場にもなった。
 島での生活に目処が立つと、周辺の小島も探索して食糧調達の基地を設置した。定期的に本部島と小島(宝島と呼んだ)を人員交替で行き来しながら数年の生活にも耐えうるしくみをつくった。
 宝島には食べられる草ブドウが生えていた。食用かどうかの判断はつかなかったが、船長は一か八かで食することを禁じた。ある日、海鳥の糞のなかからブドウの実を発見した乗組員がいて、これなら人間でも食べられると判断してこっそり食べたところ、安全でおいしいことが判明した。
 また、ウミガメを捕らえてロープで結び、ウミガメの放牧場を整備した。非常時に備えて、島に住むアザラシをペットのように手なづけた。ただしアザラシは食糧とせず、病人が出たときだけ胆を薬にする目的であったが、乗組員になついてしまい、乗組員が呼ぶと近寄ってきて、なでられると眼を細めるようにまでなっていた。
 アホウドリにはエピソードがある。魚の干物をいっせいにさらわれたことに腹を立てた乗組員のひとりが捉えたアホウドリ1羽のくちばしを縄で縛って見せしめのため離したところ、仲間のアホウドリ数羽が寄ってきて必死に縄をほどいた。
 難破生活を送る十六人には悲壮感はなく、みんなが役割を担い、一人は十六人のために、十六人はは一人のためにを胸に刻んで将来への備えを怠らなかった。少しでも改善の余地があることにはすぐに取り組んだ。歌や勉学など人間らしい時間を持ちながらも規則的な生活を営んでいた。
 遭難して数ヶ月が経過したある日、昼夜を問わず交替で見張りを続けていた当番員が船影を認めた。あまりのうれしさに声を出すことができなかった。たちまち全員招集して、薪を燃やす者、伝馬船で出航の準備をする者など日頃の訓練のようにてきぱきと行った。漂流者の合図に気付いた船は錨を降ろす場所を見定めながら、彼らの島から12海里(22キロ)離れた場所に停泊した。
 伝馬船には船長以下3名が乗り組み、停泊船めがけてこぎ続けた。やがて一昼夜こぎ続けて伝馬船が追いついた船は、日本の帆船「的矢丸」であった。甲板に上がった中川船長は、友人の長谷川船長を見て双方とも驚いた。
 島を離れる日、船長はこう言った。「一人一人の、力はよわい。ちえもたりない。しかし、一人一人のま心としんけんな努力とを、十六集めた一かたまりは、ほんとに強い、はかり知れない底力のあるものだった。それでわれらは、この島で、りっぱに、ほがらかに、ただの一日もいやな思いをしないで、おたがいの生活が、少しでも進歩し、少しでもよくなるように、心がけてくらすことができたのだ。」
 明治32年12月、十六人はひとりも欠けることなく母国の土を踏んだ。

 外国の漂流物語は作り話だが、これは実話である。日本に無事帰還できたのは幸運もあったが、仲間や組織を信じて冷静かつ地道にしかも希望を忘れずに活動したことが成果につながった。ひとたび日本に生きて帰るという大きな目標を設定したら、そのための行動計画を立てて地道に取り組むこと。人は、共鳴する他の人の願いを自らの力に変え、自らの力は仲間の力となって、また自分に戻ってくる。このことはロンドン五輪でも日本が飛躍した種目で実証されたと思う。

 「無人島に生きる十六人」(須川邦彦著)は、明るい話題ばかりではない日本で、未来を照らす教訓だと思う。一人ひとりの使命感や連帯感を良いかたちで引き出すことを、組織のリーダーは行動の軸としたい。何が良いか悪いか(事業仕訳や白黒をつけること)ではなく、どんな気持ちでどんな態度で取り組むかのほうが大切だと思う。それぞれの役割に規律と使命感を持って楽しく活き活きと動けること。政治も行政も企業も、そこから始めてみたい。




追記 スマートフォンの画面をいくら眺めても人生は拓けない。小さな文庫本にもひらけた世界がある。